X."作業玉"

彼に言われた通りにした。
彼女とは回を重ねる毎に親密になり、プライベートな事も話すようになった。
彼女の口から聞く彼の話は新鮮で、そしてそれが彼女の口から聞かされているという事実は私を静かに蝕んでいく。
そんな私にトドメを刺したのは、いつも通り彼に彼女の定時連絡をしていた時だった。

『……今、なんて言ったの…?』

カチャリと手にしていたティースプーンが落ちる。
そんな私を気にもとめず、彼は同じ台詞を繰り返した。

「君もそろそろ結婚をするべきだと言ったんだ。俺は来月には彼女と結婚する。昇級もしたし、今までみたいにこうやって会って定時連絡を受けたことで彼女に誤解されても困るんだ。」
『だからって…なんで……。』

なんで、どうして今更。
人目を避けて連絡しなければならないのならメールでも電話でもいいはずなのに。
混乱する私に彼は呆れたような視線を投げつける。

「君が結婚して家族ぐるみで付き合えば定時連絡も楽になるだろう。」
『っ、あのねぇ、簡単に言いますけどね、結婚は相手がいなきゃ出来ないのよ。』

あくまで協力の一環と考えているのか。
それでもつとめて冷静にそう切り返せば、彼はひとつ頷いて机の上に紙を並べた。

「そうだな。だが君の周りに男がいる気配もないから、俺が作業玉の中から適当に見繕ってきた。」

"以前君が言っていた結婚する条件に十分当てはまる優良物件だぞ。"

まるで他人事のようにそういう彼に、今度こそ思考が止まる。


作業玉の中から見繕ってきた?


私を、他の協力者達と一緒くたにするつもりなの…?


抑えていた本能が理性を上回り、机の上を叩きつける。
人目もなく防音された個室だからといつもの冷静さを失くし声を張り上げた。

『ふざけないで!私だって女なのよ!?』

本当にずっと願ってたの。

『貴方が結婚する、だからなんなの?!』

貴方と恋をしたかった。

『私は貴方の作業玉だけど、貴方の所有物になったつもりはないの!』

貴方に愛されたかった。

『結婚まで指図しないで!私は私が愛した人と結婚したいのよ!』




貴方と、結婚したかったのよ、降谷さん。





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