V.ウソツキ

あの後どうやって帰ったのか、記憶にない。
気付けば見慣れた自室のベッドへうつ伏せに倒れていた。

『俺の恋人は…この国だって言ってたじゃない……。』

それは私と彼が出会ってしばらく経った頃、まだ私が彼を好きになる前に興味本位で聞いたことだった。
その時彼は言ったのだ。

「恋人を作る事なんて考えたこともない。この国を守る為に日々努力してるしそんな時間もないし…。まぁ、強いて言うならこの国が俺の恋人かな。」

ふぅん、とその時は流したその言葉。
だけど彼に恋をするようになってから、私はその言葉だけを信じて生きてきた。
彼の協力者である限り。
私は彼の隣で、彼が恋人だと謳うこの国を守る手助けが出来る。
もしかしたらいつかは彼の隣に本当の意味で並べる日が来るかもしれないと。
ただそれだけを、信じてきたのに。

『っ、…うそつきっ……。』

それなのに。
彼は私の知らない所で、私の知らない女と愛を育んできたと言うのか。
大きな組織に潜入し漸くその責務から解放されたと聞いていたから、漸く私にもチャンスが巡ってきたとそう思っていたのに。

『…んで…なんでよぉっ…!』

手にした一枚の写真。
柔らかそうな髪をなびかせ、嬉しそうに楽しそうに頬を染め微笑む女の姿。
彼女が微笑むレンズの向こう側には、きっと彼がいたのだろう。
愛しい人間に見せる特別な顔。
オンナの、貌。

『っ……。』

彼に命令された通り、射抜くほど見つめた後ライターを取り出し火をつける。
証拠となるものは何1つ残さないよう、作業玉である私達に義務付けられたことの1つ。
小さく音を立て焼けていく写真を見つめながら、ぽろりとこぼれた涙が頬を伝う。



彼女をどれだけ憎く思っていても彼を裏切ることの出来ない私が、酷く無力に感じた。



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