終焉
"大事な話がある"と声をかければ、彼女は視線を彷徨わせた後しっかりとこちらを見据えて私も話があるのと答えた。
『…まずは君が探っている作業玉の事だ。』
大きく見開かれる瞳。
この瞳に、その力強さに、何度も救われた。
『君の想像通り、篠崎彩は俺の作業玉だ。俺は篠崎の想いが俺自身に向いていると知っていながら、君の護衛を任せた。』
淀みなく発せられる俺の声。
グッと握り締められた彼女両手。
小さな声で何でと呟いたのが聞こえた。
潤んでいく瞳は、それでもそらされない。
『篠崎しか適任がいなかった。俺は君を何に変えてでも守りたかったから。』
ついにその瞳から一筋、雫が溢れる。
痛いほどの沈黙は彼女の震えた声で打ち破られた。
「っ、…貴方、なら、…私に気付かせない事も出来たはずなのに、なぜ…?」
核心に触れる一言。
今度は俺の声が震える。
『……確信が、欲しかった。』
「確信…?」
小さく頷いて俯く。
彼女をまっすぐ見つめる事の出来ない自身の弱さに自嘲しながら、それでも何とか言葉を紡いだ。
『君が…、君が例え、どんな俺の姿を目にしても離れていかないという、確信が欲しかった。』
安室透ほど優しくもなければバーボンほど上手く隠せる器用さも持ち合わせていない。
強引で冷たい降谷零を知ってもなお、側にいて愛してくれるという確信が欲しかった。
「………ばかなヒト。」
呆れたような声が聞こえて顔を上げれば泣き笑いのような顔をする彼女が言った。
「本当に、バカな人。そんな事くらいで私が貴方を嫌いになると思う?見くびらないでちょうだい。」
立ち上がり俺の隣に座った彼女がペチンッと両頬を叩く。
「私を誰だと思ってるの?公安のエリートと謳われた降谷零の妻になる女よ。どれだけ醜い貴方を知っても、例え貴方に嫌われても一生離してなんてやるもんですか。」
あぁ、いい女だと、心の底からそう思う。
緩む頬を隠すことが出来ない。
「でも、貴方を想う人の心を利用するのはやめてちょうだい。私のために貴方を汚さないで。」
『あぁ、善処する。……なぁ。』
「なあに?」
風見、お前の言った通りだよ。
きっとどんな俺でも彼女は、彼女だけは受け入れてくれる。
本当に俺にはもったいない、いい女だ。
『愛してるよ。』
心の底からの想いを言葉に乗せれば、彼女は花開くように笑った。
「私も、愛してるわ。」
君を想う気持ちに嘘はない。
だけどごめんな。
これだけは、この本心だけは、君に一生伝えられないであろう俺を、許しておくれ。
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