《試し行為》
自分をどの程度まで受け止めてくれるのか探るためにわざと困らせるようなことをする。特に子供に多く見られる行動。

頭の中で自分の知識が展開されても言葉にはならない。
はくはくと口を動かして、けれど漏れるのは荒くなった息だけ。

「降谷さんは恐れてるんです。何を恐れてるのかは降谷さんにしか分からない。だけど、恐れてるからこそ奥様に試し行為を行う。」

俺とは正反対に、風見は喋るのをやめない。

「何を恐れてるんですか、降谷さん。それは奥様には言えない事なんですか。」

恐れてる?この俺が?
違う。恐れてるんじゃない。
俺はただ、知って欲しかっただけだ。
俺を、降谷零を、安室透を、バーボンを。
ただ知ってほしかった、それだけだ。


……………本当に?


知ってほしいなら話せば良かったんだ。
安室透という男の持つ優しさを。
バーボンという男の持つ冷酷さを。
それら全てを含めて降谷零なのだと、彼女に話せば良かった。
本当はそれで、済む話だったのに。

『…………風見。』
「はい。」

いくらでも分かってもらう方法はあった。
でもそれをしなかったのは、出来なかったのは。

『……ありがとうな。』

拒絶されるのが、怖かったから。

「…、はい。」
『なんだか目が覚めた気分だ。』
「それは、何よりです。」

拒絶されたくなかった。
離れていってほしくなかった。
だからこのタイミングで、彼女の罪悪感を煽るような真似をして。
そうして雁字搦めに彼女を閉じ込めた。

『…彼女と話をするよ。すまないな。』

ふっと軽く息を吐いて立ち上がりジャケットを羽織る。
鞄を手に持ち部屋から出る俺の背に、風見の声がかかった。

「奥様なら、きっとどんな貴方でも大丈夫です。」

不確定でそれでいて俺を労わるその言葉にひらりと手を振って応え扉を閉める。
いつのまにか胸の痛みは消えていた。

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