どうやらあれから彼女は作業玉や俺の交友関係について色々と調べているらしい。
表面上は何事もないようにいつも通りで、きっと俺じゃなければ気付くことなど出来なかっただろう。

『何だか最近忙しそうだな。』
「もー誰のせいだと思ってるの!あなたが専業主婦になってほしいっていうから、仕事の引き継ぎやらなんやら、あとエステとか結婚の準備とか忙しいのよ?」
『わるいわるい。こういう職業柄、家に帰ったら家族に出迎えてほしいんだよ。』

この会話だけ聞いていれば幸せそうな新婚夫婦の会話だろう。
表面上は、だけれども。

『……どう思う、風見。』
「どう思う、とは…?」

目の前に立つ風見に話をふれば表情も変えず疑問形で返される。
だがしかし俺の目は風見の指が一瞬ピクリと動いたのを見逃さなかった。
そういう所が甘いから、お前は潜入捜査が出来ないんだぞ。

『彼女、アレの事に気付いてるはずなのに何も言ってこないんだ。どうするつもりなのかな、と。』

あえてきちんと言葉に出せば、今度こそ風見は表情を崩した。

「どうするつもりもなにも…奥様はそのまま籍を入れるおつもりなのでは?」
『ホォー?他人を自分のために傷付ける男の妻になるのか?何も知らないフリをして?』

あぁ、俺はなぜ風見にこんな話をしているのだろう。

『まぁ、今更結婚を取りやめるなんて出来ないんだけどな。』

言葉を発する度、どうして胸の奥がチクリと痛むのだろうか。
ニコニコと安室透の仮面を被り目の前の部下にこちらも疑問形で返せば、風見は眼鏡をカチャリと押し上げてフーッと長いため息を吐いた。

「…降谷さん、一つ申し上げてもよろしいでしょうか。」
『なんだ、言ってみろ。』

首を傾げて促せば、風見は一つ咳払いをして口を開いた。

「降谷さんは、何を恐れているんですか。」

空気が、凍って。
ひゅっと自分の喉が鳴る。

『…何を言ってるんだ。』
「篠崎を奥様の護衛に付けるという案は確かに現状最適と思われる手です。ですが降谷さんが今しているのは"試し行為"そのものだ。貴方は一体、何を恐れているんですか。」


風見の瞳が真っ直ぐ俺を見つめる。


開いた俺の口はしかし、言葉を発することが出来なかった。

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