◇Route2

疲れたからと先に寝室へ入り、隠し持っていたタブレットの電源を入れた。
起動させたアプリには彼女に内緒でこの家に付けた監視カメラの映像がずらりと並んでいる。

『……ふ、悩んでるな。俺の奥さんは優しいことで。』

眉間にシワを寄せ瞑想する彼女をツツッ、と指でなぞり、笑みを浮かべる。
わざとあの場で風見の通話に出た甲斐があった。
彼女は俺とアレの関係を疑っているようだから、あえて揺さぶりをかけたのだ。

『…さて、俺の奥さんは俺のした事に気付いたらしい。一体どう出るんだろうな。』

呟いた言葉は暗闇へと溶けていく。
優しく賢い彼女が、風見との会話の中から俺のした事に気付くのにそう時間はかからなかった。


優しいやさしい、俺だけの宝物。


青ざめたその脳内を占めるのは本当に罪悪感だけだろうか?
頭を抱えた彼女に苦笑して電源を落とす。
柔らかなシーツに身体を埋め、俺はふっとため息ついた。

『どんな"俺"でも、受け止めてくれよ…?』

なぜこんなに愛する彼女を苦しめるような真似をしたかと誰かに聞かれれば、こうとしか言いようがない。
彼女には知っていて欲しかったのだ。


"降谷零"の強引さを。

彼女の知らない"安室透"の優しさを。

そして……本来ならあの日に消さなければならなかった、"バーボン"の残酷さを。


彼女は何も知らない。
トリプルフェイスの事や俺が今までどれだけ手を汚してきたかを。
彼女の存在だけが俺を"俺"として引き止めていたことを。
何も、知らない。

だけど俺はワガママだから。

過去にしてきた事は何一つ彼女に言えないけれど、俺が作り上げた人格の事を、例え遠回しであったとしても知っていてほしかった。
安室透もバーボンも、間違いなく俺の中に潜む感情によって作り出されたのだから。


『……愛してるよ。』


俺も俺の中に巣食う2人も。
狂おしいほどに、彼女を愛している。


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