◇Route1
誰かの不幸を間接的に喜ぶ自分に嫌悪した。
それと同時にこの考えが間違っていれば悲しむ人はいないのにとも思った。
だけどきっとこの答え合わせに彼は付き合ってくれない、それどころかむしろ上手くはぐらかされてお終いだろう。
なら彼の部下の風見さんは?だめだめ、あの人は彼に忠実すぎるくらいだから絶対に口を割らない。
『だから、教えてちょうだい。』
頼るなら、この子しかいなかった。
「なんてーか…流石降谷さんの奥さんになる人ですね。」
目の前の青年は頬をかき苦笑を浮かべる。
古い知り合いだと先日紹介された青年はメディアにも取り沙汰される名探偵。
彼ですら日本警察も本来なら庇護する対象の青年の脳を借りる事がある、となんとも言えない表情を浮かべていたほど。
そんな彼なら。
『お願いよ新一君。私の知らない所で傷付く人がいるなんて嫌なの。』
呼び出した喫茶店で私が行き着いた考えを全て吐露した。
私より彼との付き合いが長い新一君なら答えを導き出してくれると、そう思ったから。
けれど私の言葉を聞いた途端新一君はその柔らかな蒼色の瞳をほんの僅かだけれど鋭くさせた。
「真実を知ったとして…貴女はどうするんですか?」
『え……。』
「仮に貴女の推理が正しいとしましょう。降谷さんは自分に好意のある作業玉を利用して貴女の警護をさせた。側から見ると降谷さんはかなり残酷な事をしていますね。」
すらりと男性にしては綺麗な指を組み、ほんの少し前屈みになる。
「降谷さんの残酷な面を知って…貴女はどうしますか?降谷さんから、逃げますか?」
思いもよらない発言に言葉を詰まらせる。
仮にそれが本当だとして。
そんな残酷な事をした彼から離れる?
沢山の人を弔ってきた彼を、また1人に……?
『…、いいえ、逃げないわ。』
「なぜですか?」
確かに残酷な事をしているかもしれない。
だけどそれが私のためなら。
私を愛していて、傷付けたくないと思った結果だとするのなら。
『それが私を想ってした事なら、彼だけそれを抱えるなんて間違ってる。私も一緒に抱えるわ。だってそれが…』
夫婦ってものでしょ……?
『私は…私達は、綺麗事だけじゃ生きていけないの。本当の事を知りたかったのは、彼が抱えたものを私も背負いたかったから。』
きっと彼は作業玉である彼女に対してなんの感情も持ってないふりをしながら、心の何処かでは例えほんの僅かであったとしても彼女への申し訳なさを抱えているはずだ。
だけどそれを見せないのは、見せた方が彼女をさらに傷付けるから。
全てを掌握した上で冷たくするのが最善だという答えを出した。
『私の知る降谷零は、最後まで冷酷になりきれない人だから。』
真っ直ぐ新一君を見つめれば一瞬目を丸くして…そしてふっと破顔する。
「それでこそ、あの降谷さんの奥さんだ。その覚悟があるならいっそ本人に聞いた方が良いですよ。」
そう言った新一君はゆっくりと私の後ろを指差す。
「お互いちゃんと話し合ってこその夫婦、でしょ?」
"ね、降谷さん…?"
ハッとして後ろを振り返れば、苦笑している彼がいて。
驚いたまま固まっていると、彼は私の肩に手を置きその綺麗な唇を開く。
「……大事な話がある。」
ゆっくりと差し出された手を、何があっても離さないように強く握りしめた。
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