▽嫌悪

あの後、彼は相当疲れていたのか夜食を食べお風呂に入ると珍しく先に寝室へ行ってしまった。
いつもなら私もそのまま寝るところだけれど先ほどの通話が気になってしょうがない。
淹れたての紅茶をローテーブルに置き、ソファに座ると彼が話していた内容を頭の中で再生した。


彼女…は多分私の事。ちょっと恥ずかしいけれど、彼が私の事を"宝物"と称して話すのだと伯父様から聞いたことがあるから。


では対してアレは?私に敵意を持っているけれど、手は出せない。身近な人を指す単語だろう。そして女性。


これだけでアレが彩さんの事を指すのは十分理解できた。
彩さんは彼の事が好きだけれど、訳あって私を守らなければならない。
私には絶対に手を出せない。


でも…それはなぜ?


好きな人の恋人…いわば恋敵をなぜ守らなければならないのか。
それに作業玉とは一体なんなのか。
彼は"手駒の中でも"と言っていたけれど、単なる部下とも違うようだ。
むしろ部下なら部下だと説明があるだろうし何より名前で呼ぶはず。
こうなれば文明の利器に頼るべきだとスマホを取り出しタップして、そして出てきた情報に目を通した私は彼が私の為に、私を何かから守る為にしたことを知って愕然とし。
それだけじゃないそれに行き当たった時浮かび上がった自分の考えに。



彼が例え誰かの想いを踏みにじってでも私を守りたいと思ってくれている事に。



その彼の感情に歓喜した自分に。



言いようのない嫌悪を感じた。





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