▽私の知らない"彼"

最初は元カノか何かだと思ったの。
もしくは古い言い方だけどワンナイトラブ。
でも彼の態度は関係を持った女性に対するものだとは到底思えない。

(うーん…分かんない…。)

だけどどう疑った所で、私が彼の秘密を暴けるはずなんてないのは分かりきっていた。
彼は現職の警察官で警察庁所属。
だけど部署名までは言えないなんて、伯父を筆頭として身内が警察関係者だらけの人間からすれば彼がどこに所属しているかなんて簡単に推測がついたから。
そんな…ある意味でとても優秀な彼を出し抜くなんて無理に決まってる。

けれどそれを知れたのは、偶然に偶然が重なったから。

「…もしもし?…風見か。」

その日の彼はとても疲れ切っていて。

「あぁ…そうか、うん…。」

いつも仕事の電話が鳴れば必ず鍵のついた自室にこもるのに、疲れていたためにそれをしなかったこと。

「…分かった。他には何かあるか?」

台所にいた私との距離を見て、おそらくこれくらいなら大丈夫と思ってしまったこと。

「………まだ言ってるのか。大丈夫だ。まぁ不穏な視線は見せたが…何度もいうがアレは彼女に手を出せない。」

そして最大の彼のミスは。

「アレは女だが手駒の中でも優秀な作業玉だ。あの店の中でそれなりの立ち位置にいるし彼女を守るにはうってつけなんだよ。」

私の耳がとても良いのを…彼が知らなかったこと。

「まぁ彼女になにかあれば容赦はしないさ。俺の大事な宝物だからな。…それじゃ。」

ふぅ…と溜息をつきソファに寝っ転がる彼の為に夜食を作りながら、聞こえてきた情報を整理する。



聞きなれない単語が、聞きなれない彼の冷たい声が脳内に反響した。




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