▽違和感

おかしいと最初に気づいたのは、彼から勧められたエステに何回か通ったある日。
ちょうどタイミングが良かったのか、彼がお店まで迎えに来てくれた時だった。

『このお姉さんが私の担当の彩さん!』
「、篠崎と申します。」
「あぁ…妻がお世話になってます。」

一瞬、ほんの瞬き。
彼が彩さんを見る目が、彩さんが彼を見る目が交わった瞬間。
この2人の間に何かあると、そう感じた。

『っ、あー!零ったら彩さんに見惚れてる!まさかまだ籍も入れてないうちから浮気?そりゃ彩さんは綺麗だけど…。』

一瞬の嫌な空気を吹き飛ばすかのように彼に声をかければ彼はキョトンとその大きな瞳をこちらに向け、そして次の瞬間にはくっと喉を鳴らして笑い始めた。

「くくっ…馬鹿だな。俺にはお前しか見えてないよ。」

くしゃくしゃと私の頭を撫でて笑う彼はいつも通りで、あれ、気のせいだったかも?と思いながらちらりと視線を彩さんに向けて。


その表情を、見てしまった。


苦しそうに、悔しそうに彼を見る彩さんの表情を。
そして私に向けられた、ほんの僅かな敵意を。

『っ……。』

ひやりとしたその敵意に思わず息を飲めば、まるでそれから守るかのように彼の腕が肩に回された。

「ほら、帰ろう。俺今日はパスタが食べたいんだ。この間作ってくれた和風のやつ。」
『あ、うん。なら買い物して帰らないと…彩さん、また次回よろしくお願いします!』
「えぇ、お待ちしてますね。」

そろりと彩さんに顔を向ければいつもと変わらない笑顔を浮かべていて。
だけど会釈し後ろを向いた瞬間背中に突き刺さった視線に。


あぁ、やっぱりこの2人には何かある、と。
ただただ漠然とそう思った。

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