△降谷零は男である

静かな牽制。
俺の妻が元作業玉であり、またIOTテロの際直接的な原因になった人物と関わりがあったことを踏まえて踏み込むなと釘を刺された。
あの人には、どこまで先が見えているのか。

「……という事があったんだ。」
「うげぇ……分かってた事ですけど、降谷さんってほんとエゲツないですよね…。」

目の前にいる少年…否、例の組織が壊滅してから元の姿に戻り今や日本警察になくてはならない存在となった青年は両親譲りのその綺麗な顔を歪ませた。

「つーか、俺にそんな事話して大丈夫なんですか?」
「降谷さんも俺が工藤君に話す事はおそらく予測しているだろう。それにこの件は捜査や事件と関わりがないから問題ない。」
「そーいうもんなんですかね…。」

ズズッとアイスコーヒーを啜った彼が頬杖をつく。

「つーか俺的には、降谷さんが結婚することの方がビックリですけどね。あんだけ国が恋人とか言ってたくせに。」
「それは、まぁ…。」
「作業玉の人については…相手が悪かったとしか言いようがないですよ。」

同情はしますけど、とまたコーヒーを一口。
彼の目から見て今回の件は降谷さんらしいという結論に落ち着いたのか。
俺の視線に気付いた工藤君は肩をすくめて苦笑した。

「…降谷さんってほら、さっきも言ったけど国が恋人ーとか真顔で言い切っちゃうような人じゃないですか。自分の感情も命も何もかもを日本に捧げてきた人。」

すっと細めた瞳は俺じゃない何かを映す。

「そんな降谷さんが持てる全てを使ってでも守りたい人が出来たって事が、俺は嬉しいんですよ。」

………降谷さんは今まで沢山のものを失くし、犠牲にしてきた。
幼馴染や同僚、時間、精神、そして自らの望む正義。
全ては日本のために、日本国民のために。
そんな降谷さんが多少の公私混同をしてでも守りたいと思った相手。
例え他の誰かが涙を流すことになったとしても。
それでも。

「俺はどんな理由があろうとも犯罪によって人の命が奪われ犠牲になる事は絶対に許せない。だからといって博愛主義なわけでもないんです。…俺にも、一番に守りたいやつがいますから。」

降谷さんと同じ瞳をした青年は、きっと降谷さんと同じ世界を違う角度から生きている。

「そいつの為だったら俺は周りの人間を使ってでも守ります。降谷さんも結局の所只の男だったって事ですよ。」

"やる事が"普通"と比べればスケールが大きかったってだけで。"

そういった工藤君の顔は婚約者の事を話す降谷さんと似ていて。
なるほどと納得してしまったのは彼の話術かその性格ゆえか。

「本当に君は…末恐ろしい子だよ。」
「えー?ってか、降谷さんの奥さんになる人ってどんな人なんですか?この間結婚式の招待状届いたんで今から蘭達と楽しみにしてるんですよ!」

彼に話すと気が楽になる。
なるほど、彼の周りに人が絶えないわけだ。

「とても素晴らしい人だ。きっと降谷さんを支えてくれる。」
「さすが、優秀な刑事には優秀な女房がつくってのは本当なんですね。橘先生も賢い方ですし。」
「うちのも…まぁ、そうだな。」

その後は可能な限りで降谷さんの奥様になる相手の話や俺の家庭の話、工藤君の彼女について語り合った。
懐かしい話で盛り上がるうち、少し前まであった篠崎への情はすっかり消え失せていた。

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