△降谷零は鬼か人か

上司である降谷さんは正義感に溢れ責任感が強く、また頭も良ければ運動神経も良いという文武両道のような人だ。
そんな人が上司であることを感謝する一方で
とても…とても、恐ろしく感じる時がある。

「篠崎彩を奥様の護衛にする?!本気なんですか降谷さん!!」

作業玉の1人である篠崎彩を、例え一時的なものとはいえ婚約者の護衛に当てると言い出した時もそうだった。

『あぁ。とはいえ物理的な護衛ではない。彼女に悪い情報を聞かせない為の精神的なものだがな。』
「それは承知しております。しかし……。」

かなり古株な篠崎はその職場環境ゆえ情報収集に長けていた。
降谷さんとの付き合いもかなり長いものらしく、降谷さんに対する忠誠心は全作業玉の中でも1、2を争うだろう。
けれど篠崎の場合は付き合いの長さが、その性別が、今回の護衛においては仇となってしまう可能性があった。

『なんだ。言いたいことがあるならハッキリと言え。』

聡明な彼なら気付いているはずの、要因。

「失礼ながら申し上げます。篠崎は降谷さんの事を…。」
『あぁ、そこか。彼女は俺に好意があるらしいな。』

やはり気付いていた。
それならば彩を護衛にする事で起こりうる危険性にも当然気付いているはず。
なのに、なぜ。

『そういった危険分子も余す事なく掌握してこその一人前だ。それに…アレは俺に盲目しているがゆえに、彼女に手は出せない。』

険しい表情をしているであろう俺とは正反対に降谷さんは笑った。
残酷なほど、綺麗に。

『彼女が俺にとってどれだけ大切か知れば知るほど、アレは手を出す事が出来ない。手を出して俺に捨てられる方がアレにとっては恐怖だからだ。』

“それにいざという時、アレがいれば彼女の盾になってくれるだろうさ。"

…降谷さんは日本の為、日本国民の為に文字通り身を粉にして働いている。
いつぞやのIOTテロの際は国が恋人だと工藤君に言っていたくらいに。
けれど時に、彼は自分の身内と認めた以外の人間に対し非常に冷酷になる。

「…それでいいんですか、降谷さん。」
『言ったろう風見。"危険分子も余す事なく掌握してこその一人前だ"と。』



そう言って笑んだ彼の瞳の奥に写ったのは、鬼か人か。



『…まぁ、お前の奥さんも元作業玉だから言いたい事も分かるけどな。お前の奥さんとアレは別物だ。情なんて持つなよ。』

固まってしまった俺の肩を叩き、降谷さんが苦笑する。
そして話は終わりだと言わんばかりに1つ伸びをした。

『悪いが俺はこれから直帰する。彼女が家で待ってるんでな。』

ひらひらと手を振ってエレベーターへと乗り込む降谷さんが視界から消えるまで、微動だにすることが出来なかった。




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