He knowS

1.毛利小五郎は知っている

【眠りの小五郎】
ある時突如としてその才覚を発揮し、瞬く間に迷宮なしの名探偵として世間に名を馳せた男。
【迷探偵】
そして…毛利小五郎の探偵としての真相を知る者が彼を表す時に使う言葉。
喫茶店のアルバイター兼弟子に居候の坊や、姉の娘に住む大学院生…。

『皆ほんとになぁんにも……分かってないのね。』

"ねぇ、ごろちゃん?"

古びたチェアの音が鳴る。
ビールを煽り競馬中継を聴きながら新聞を読む姿は坊や達や蘭ちゃんが言うようにダメな大人のそれ。

「…need not to know.知らされないなら、知っちゃいけねぇ。だから俺は、蘭達を守る為に俺ができる事をするまでだ。」

だけど本当の彼は、それだけじゃない。

『ごろちゃんほんと損してる。坊やの事もあの弟子の事も。』

本当に迷探偵なら、警察を辞職して10年も探偵を続けられていたのは何故?
実家はお金持ちなんだから、別に探偵に拘る必要なんてなかったのに。
いやそもそもあそこまで順調にキャリアを積んでいた男が、何も気づかないと思っているのか。

「いいんだよ、それで。俺は蘭や英里、それに…あいつらが幸せでいてくれたら、それでいいんだ。」
『…だから坊や達の事、そのままにしてるのね。』

元とはいえ警察官が、同業の人間の匂いを嗅ぎとれないわけがない。
たとえ蘭ちゃんの事があるから快く思わなかったとしても、幼子の頃から見ていた子どもに気付かないわけがない。

「それはお前もだろ。」
『ふふ、そーでした!ほんと、ごろちゃんには敵わないわ。』

けれど例えどれだけ危険だとしても知らないふりをするのは。
"知らないふり"をする事が自分の役割だと、彼自身よく分かってるから。
それがどれだけ坊や達の助けになっているのか、坊や達が理解する日は来ないのかもしれないけれど。

「俺は表立って動けねぇんだ。あいつらのこと、頼んだぞ。」
『可愛い甥と可愛い後輩ですもの。任せてちょうだい。』


毛利小五郎は、知っている。


自分の力量と、自分がすべきことを。




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