「俺の代わりにしんでくれ」
わたしの腹にまたがって政宗さまはつめたい手の指をわたしのくびにそうっと這わせた。政宗さまのひとつになった目のまぶたは赤くなって腫れていて、目の下にはとても悪い色をした隈ができていた。
「よろしゅうございます」
指にすこしずつちからが籠められていくのを感じて、声を出せなくなる前にと思ってわたしは唇をひらいた。
「よろしゅうございますが、それで政宗さまは後悔なされませぬか」
ほんの一瞬だけ、政宗さまの手のちからが弱くなった気がした。それでも政宗さまは表情を変えずにひくい声でああと云ってまたわたしのくびをしめつけた。すこしずつ息ができなくなって、すこしずつ視界がかすんできて、政宗さまのお顔もぼやけてしまって、あとすこしでまぶたが閉じてしまいそうなころ、頬にぱたりとつめたいなにかが落ちてきた。嗚呼、嗚呼、ずうっとお側におれないのだけはかなしゅうございました。



「うそだ」
政宗くんはわたしと話しているときに、たまにとても泣きだしてしまいそうな顔をしてそう言うのだ。直前まで政宗くんが話していたことはうそでもなんでもないことなのに、そう言うのだ。泣きながら政宗くんはわたしの手をひいてわたしの背中にうでをまわしてわたしのくびに鼻をすりよせて、そう言うのだ。
「おれが言いたかったのはあんなことじゃねえんだ」
肩につめたい政宗くんのなみだが落ちて、わたしは政宗くんの髪の毛をなでた。どうしたの。わたしは政宗くんの髪の毛にくちびるをよせた。
「くそ、くそ、」
もうつめたくなってうごかなくなったわたしのむくろの心の臓のあったところにひたいを押しあてて政宗さまは泣いていた。政宗さまに代わってわたしはしんでさしあげたのに、なにゆえに政宗さまが泣くのでございます。わたしは政宗さまのためでしねたことがうれしゅうございますのに。

「おれだけが覚えてるんだ、これはおれの罪だ」
政宗くんは泣くのをやめないで、ひとつになりたいみたいにうでをきゅうきゅうとしめつけた。あのときにくらべたらぜんぜんいたくなかった。わたしは政宗くんのなみだでぬれたほっぺたを両手ではさんでこちらにむけた。
「なれば、こんどはお側において離さないでくださいませ」
政宗くんはますます泣きじゃくって、わたしは嗚咽をもらすくちびるにくちづけた。


君を抱きしめた記憶は消えないで、どうか来世へ送ってほしい
120322 sengokubasara/date masamune
しおからい嘘ですねさまへ提出
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