涙を流すでもなく、怒るでもなくただ困った顔をしてオロオロしている女を見つめる。
「カクこれは何の冗談?」
手足の自由を奪われ、首を繋がれる女は必死に笑顔を作ってわしに話しかける。
「ひっ、」
そしてわしが近付けば顔を強ばらせる女。
わしがペタリと女の顔に触れればガクガクと震え始める。

「カクどうしたの…。」
いつものあなたはどこに行ったのよ!と叫ぶようにわしに問う女にニコリと笑いかける。
いつものあなたとは一体何だ。
船大工として仕事もそつなくこなす仲間や街のみんなからの人望も厚くて明るい優しい恋人のわしか?
それとも、


噛みつくように目の前の女にキスをする。
突然のことに驚いた様だった。
女の着ている服を破るように上だけ脱がすと真っ青な顔で助けて助けてと誰に届くはずもない精一杯の声で叫ぶ。
とても滑稽である。

「や、やめて!」
「お前が悪いんじゃ。」


必死に逃げようともがく女。
しかし逃げられるはずもない。
手足を縛っているところはもがいたせいか赤く染まっている。


「私が何をしたの?いつもの優しいカクに戻って!」
「これがいつものわしじゃ。」
自分でも不気味な笑みを浮かべているのが分かる。
いつもはあなたといると楽しくて仕方ないと言う顔でわしを見る女は現在恐怖で顔を強ばらすばかりだ。


「名前はわしだけのものじゃ。」

女はわしのことを何も知らない。
それなのにわしのことをまるで全て知っているとばかりに振舞う。
お前は何を知ってる。

女はよく言う。
カクは本当に優しくて人気者で自慢の彼氏よ。
笑いそうになるのを必死に堪える。
女の中の優しくて人気者の彼氏は嫉妬などしない。
いつもニコニコ笑って一緒にいるだけの存在のようだ。
何て馬鹿げてる。
お前が他の男と楽しそうに話すたび殺意すら感じるというのに。
本当は子供染みた付き合いなどやめたかった。
街の人から憧れの的である男の実態はただの人殺しだということに気づいて欲しかった。




目の前にいる女は相変わらず泣き叫んでいる。
わしはただ笑ってこう言う。


「愛してる。」


この女にわしのことをほんの少しでもいいから知って欲しい。








0807

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -