放課後、誰もいない教室、男女が二人きり、押し倒す男、押し倒される女。
もし私が女子高生だったなら、かなりときめくシチュエーションだと思う。
しかし私は女子高生ではない。
私は高校教師である。


「何してるの。」
「先生を押し倒してるよい。」

そう言い口の端を上げてにやりと笑うこの子は生徒である。
こんな悪そうなマルコ君の顔は初めて見た。
普段のマルコ君は全てにおいて非の打ちどころがないと言っても過言ではない。
頭もいいし、運動神経もいいし、性格もいい。
私が女子高生だったらマルコ君を王子様の様に崇めたに違いない。
T大にも余裕で合格だろうと言われているマルコ君は先生からの評判も非常に良かった。
所謂優等生である。
マルコ君に勉強を教えてくださいと言われるだけで何だか優越感に浸れた。
私みたいなまだまだ新人気分の教師をマルコ君みたいなすごい生徒が頼りにしてくれるなんて、と嬉しくなったものだ。

そんな子がそんなことをするわけがないと思ったが、実際こうして私は机の上に押し倒されている。
ここを誰かに見られたら私は確実に捕まる。
保護者、PTA、教育委員会、教師陣、生徒にこの事が耳に入れば私の行く末は決まったようなものだ。
そう思うと冷や汗が流れる。
私は私を押し倒すマルコ君の腕から逃げ出す。


「ふざけるのはやめようねマルコ君。」
「ふざけてなんかないよい。」
「彼女いるでしょ!?」
「あんなガキくさい女たち本気じゃないよい。」

女たちと複数形の所にも驚いたが、さっきからにじり寄って来るマルコ君にも驚く。
私は後ろに下がり続ける。

「せ、先生も年齢の割りに精神年齢低いし、お姉さまな感じなのがタイプならカリファ先生やロビン先生のほうがいいよ!」
「…。」

私の発言もどうかと思うが、この状況では仕方ない。
そもそも大人の女に男子高校生が憧れるのも分かるが、私なんて大人の皮をかぶった子供でしかない。

私は結局、壁際まで追い詰められてしまった。
マルコ君は先ほどから無言で私から目を離さない。
私は冷や汗が止まらずオドオドすることしかできない。
自分の教師としての威厳の無さに嫌気がさす。


私は再びマルコ君に捕まる。
顔が近づいてきて私はぎょっとして手でガードする。
マルコ君はムスッとした顔をする。
「手、邪魔だよい。」
「邪魔じゃないよ!何をしようとしてたの!?」
「俺はずっと前から先生が好きだったんだよい。」
「答えになってないよ!」
「俺は勉強なんて教えてもらわなくても自分でできるんだよい。」
「つまりそれって…」

私が最後まで言わないうちにマルコ君は私の手をとってキスをする。
ああああ、と叫びたかったが、叫ぶ余裕なんて与えられない。
最近の男子高校生は怖い。
高校生なのに、こんなキスの仕方を知ってるなんて…。
マルコ君は唇を離す。
私をしばらく見つめて嬉しそうに笑うもんだから不覚にもきゅん、としてしまった。
年相応の表情も出来るんじゃないか。
保護者、PTA、教育委員会、教師陣、生徒に見つからなければいいのだろうか、と思ってしまう教師としての自覚の無さをどうにかしたい。









0523
20000
美弥さんへ

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