村の嫌われ者の僕は今日も外れにある木の下でこっそり身を丸める。
ご飯を食べようと栄えてる所まで行ったら村人たちに見つかってしまったのだ。
今日の戦利品はカビの生えたパンだけ。
まあ何もないよりいいや、と噛り付く。
ここは村人に見つからないうえ、雨や強い日差しから体を護ることができるのだ。

パンを食べていたら、人の足音が聞こえてきた。
警戒していると、見知らぬ顔の人が歩いてきた。
「雨が降ってきたから私もここで雨宿りしてもいい?」
ぼくが普段接する村の人と違って優しそうだった。
ぼくは言葉が話せないので頷く。
とても綺麗な女の人だった。
ぼくを撫でる手はとても白くて傷だらけだった。
手首のその傷は古いものやさっきついたばかりなのか新しいもの様々だった。


「君も一人なの?」
ぼくは頷く。
すると女の人は突然泣き出した。
大好きなのにあの人は私を連れて行ってくれないの。
と言う。

「私の恋人ったらひどいと思わない?」
「この傷もね、そのせいなの。」
こんなこと言っても分からないよね。
と言ってポロポロ涙をこぼす女の人。
何とか元気になってほしくて女の人の顔をなめる。
そしたら笑ってありがとうと言った。

「ありがとう。私は名前っていうの。また来てもいいかしら?」
ぼくは嬉しくなって頷く。

それから名前は木の下に来るよになった。
雨の日も晴れの日も風の強い日も。
日に日に彼女の傷は増えていって、来る度来る度泣いていた。
ぼくは名前が泣く度慰めた。
ぼくは話せないけど、それでも毎回名前は喜んでくれた。
ぼくは名前を泣かせるその海賊の恋人のことが許せない。
もう会わなければいいのに、と思うけど、名前はそれを望んでないみたいだ。


「明日で私の恋人が行ってしまうの。」
相変わらず泣いている名前。
私必ず連れて行ってもらうわ!
と嬉しそうに言う。
ぼくはまた一人ぼっちになってしまうな、と悲しく思ったけど名前が幸せならそれでいいや。
名前の傷が増えないことを祈ろう。


「明日であなたとお別れだと思うととても寂しいわ。」

ぼくをぎゅうと抱きしめて相変わらず泣く。
また会えるといいね、と言って帰ってしまう名前。
不安になって呼び戻そうと思うけど出来なかった。
明日ぼくは名前とお別れするんだ。





朝になった。
今日で名前が行ってしまう。
少しの間だったけど、誰かに必要としてもらえたことがぼくにはとても嬉しい。
お礼をしなきゃ、と思って村の中心に来る。
名前においしいパンをあげよう、と思ってパン屋の様子を見計らう。
すると白い格好をした人たちが何かを運んでいる。
村人が何だ何だと見ている。
なにかすごい食べ物だろうか、と人の間を潜り抜け見てみたら白い布をかぶった人を運んでいた。
その横を泣いてる男の人が走ってついてきている。
ぼくは心臓がドキドキした。
布からダラリとたれた白くて美しい傷だらけのあの手には見覚えがあったからだ。

でもきっと違う、と言い聞かせ、野次馬と化したため誰もいないパン屋からとびきりおいしいパンを咥えて走る。
海の方まで行くと船が一隻だけ停まっていた。
中には誰もいないようだったので待つことにした。



しばらく待っているとさっき泣いていた男だけが帰ってきた。
男はぼくに気付いたらしく近付いてくる。
怖くなって逃げ出したくなったけど耐える。

「名前が話してたのはお前か。」
目の前にしゃがむ男は相当泣いたのか目や目の周りが真っ赤だった。
あいつな死んじまったんだ。
そう言うこの男にぼくは精一杯噛み付く。
こいつが名前を殺したんだ、と思うと我慢できなかった。


「…俺が殺したも同然だな。」
ぼくが噛み付いたのを振りほどこうともしないでそう言う。
「俺は名前と一緒にいたかったんだ。だけどこれからの航海を考えるとそんなの連れて行けるわけねえ。」
「ただ生きていてほしかったんだ。」

あいつの幸せを望んでいたんだよ。
と、ぽろぽろ涙を流して、泣き出す男は悔しそうに声を堪えて泣く。


「名前が喧嘩になる度、自分で傷をつけて俺を脅すけどあいつが死ねるはずがないって思ってたんだ。」


名前は自分がどれだけあの人のことを困らせているのか分かるの、と言っていたのを思い出した。
でも私、彼と一緒にいれれば他に何もいらないの。
エースの傍にいるだけで私は幸せなの、とよく言った。



男は未だ泣いている。
ぼくは噛み付いていた男の腕を放す。
ぼくが吼えれば男は笑った。
こんなこと言ってもお前には分からないよな、と。


名前の幸せはこの恋人と一緒にいること。
この男の幸せは名前が幸せに暮らせること。
ぼくの幸せはこのフランスパンを嬉しそうに食べる名前がぼくを撫でてくれること。
どうしてみんな幸せになれないのだろう。








0515




自殺する女とエース

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