見つかってしまった。
私はアニキに迷惑をかけてはいけないと、逃げる支度をする。

「アニキ今までありがとう。」
アニキとの思い出はたくさんある。
本当に本当にいい人だった。
私が監禁生活の話をしたら一緒になって泣いてくれた。
そしてたくさんの助言もくれた。
お前もフランキー一家の仲間だと言ってくれた事は忘れない。
私はアニキとの思い出を頭に繰り広げながら、フランキーハウスを後にする。
夕方になりかけていて辺りは真っ赤だった。
私はとにかくアニキの家から離れた反対側の岸へ出ようとやみくもに走る。



「名前、何故ここにいる。」
「ルッチ。」


目の前にはルッチがいた。



「どうやってエニエスロビーから逃げた?殺したのか。」
「まさか。」
「何でお前はいつも俺の言うことが聞けないんだ。」

そう吐き捨てるように言うもんだから、私は怒りやら悲しみやらよく分からない感情が沸いてくる。

「私はあんな生活嫌です。」
「何故だ。何不自由なく生活できていただろう。」

ルッチは大層怒っているようだった。
眉間の皺が無数にある。
ジャブラと喧嘩している時よりもあるだろう。
それにしてもよくよく見れば笑える格好をしている。

「逃げるならここでお前を殺す。」
「どうして。」
「お前が俺を理解しないからだ。」


ルッチがその気になれば私なんて5秒で殺せる。
私は近くにある死というものが実感できない。
ルッチの意思一つで私の生死は決まる。
また前の様に泣いて土下座したらきっとルッチは許してくれるはずだ。
でも、それでは一生同じ事の繰り返しになる気がする。


「パウリーも殺したのですか。」
「…。」

剃をして私の目の前に来た瞬間ガブリ、と首筋を噛まれる。
あんなに距離があったのにさすがルッチだ。

「い、痛…、」
「俺以外の男の名前を口にするな。」
「うっ、」

首筋をあまりにも強く噛むものだから血が溢れる。
痛いし怖いし涙が出てきた。
このままか噛み殺されるのだろうか。
そんな死因嫌だな、なんて思いながら私は目を閉じる。
たくさんのことを思い出す。
何だかんだでルッチのことばかり浮かんでくる自分に嫌気がさす。
私の思い出のほぼを占めるその男に殺されようとしているのだから。

私はルッチと離れたい。
いつだってルッチは私を自分だけのものにしようとした。
そのくせルッチには鳩がいたり、多くの人からの仕事に対する評価を得ていたり、強いし、金持ちだし、私に無いものをたくさん持っていた。
私はもてはやされ、人々の恐怖の対象へと成長していくルッチが嫌だった。
私はルッチがいない間ずっと一人だった。
何もないただの女でしかなかった。
CP9という肩書きがあるとはいえカリファよりも非力だった。
でもCP9のみんなはそんな私を仲間として接してくれていた。
私は初めて自分がいてもいいと思える居場所を見つけた。
それなのにルッチは俺以外と喋るなとか言う。



「どうする?お前の返事一つで生かすも殺すも俺次第だ。」
涙と血はぼたぼた溢れる。
死ぬのは怖い。出来れば死にたくない。
ウォーターセブンよりももっとすごい都市もあるかもしれない。
私の見てきた世界はひどく狭かった。
広い世界を見たい。


「死にたくないです。」
「だったらエニエスロビーで待ってろ。」
「私はルッチのお人形じゃないのよ。」
「…。」
「私を結局一人にするのはルッチでしょう。」
涙が止まらず鼻水まで出てきた。
こんなぐしゃぐしゃな死に顔は嫌だけど止まらないものは仕方ない。
首から血もたくさん出てるし、干からびて死ぬのかもしれない。
嫌過ぎるなんて思っていたら、ルッチはぺろぺろと丁寧に私の顔の涙や首筋から溢れる血を舐めとる。
私はどうしていいか分からず固まる。
ぺろぺろと唇を舐める舌で私の口をこじあけ深く口付ける。
血の味がした。
私の血ってこんな味なのか。

ルッチは名残惜しそうな顔で口を離し、
「俺はお前がどこにいたって必ず連れ戻す。」
と言い放ち、私から離れる。
そしてくるりと振り返ればすたすた歩いていく。
意味が分からない。
私はただ呆然とルッチの背中を見つめる。









「」

遠くでルッチが何か言ったけど聞こえなかった。
私は血が未だ止まらない首筋を抑えて服を引き裂いて止血する。
ルッチはきっと私を本当に迎えに来るのだろう。
早くここから逃げなくては。




















20100425


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