「嘘吐き。」

私は隣を歩くウソップに聞こえるか聞こえないかの声でその言葉をぶつける。


「何か言ったか?」


ウソップは首を傾げる。
彼の立つ背景は晴天である。
ウソップの海賊デビューには最適の日だ。


ウソップは私が仕えるカヤ様のところによく遊びに来る少年だった。
はじめはカヤ様に嘘ばかり吐く彼が嫌いだった。
カヤ様は私がどんなに言ってもウソップと会話するのを止めなかった。
カヤ様だけでなく村のみんなもそうだった。
ウソップの嘘がないと町は始まらんと言い出す人もいたくらいだ。


私はどうしてカヤ様や村の人たちにあの嘘吐きが好かれるのか謎だった。
そんな時、メリーさんが私に彼の過去について語ってくれた。
別に同情したわけじゃない。
純粋に尊敬した。
私と年齢も変わらないひょうきんなあの少年は確かにみんなのことを考えて嘘をついている。



「あの麦藁と本当に一緒に行っちゃうの?」
「…ああ。」
「たまねぎとにんじんとピーマンはどうするの。」
「あいつらは俺が居なくても大丈夫だ。」
「カヤ様は?」
「カヤだってそうだろ。」
違うよ、カヤ様はウソップのこと大好きだから悲しむよ。と言おうとして黙る。


「私は心配じゃないの。」
「お前だって」
「大丈夫だよ!」
「っ!?」


ウソップの胸ぐらを掴んで唇にキスをする。
大層驚いた顔をして立っているウソップは傑作だ。

「誰もが知る海賊になって帰ってきてね。」
「当たり前だ!って、お前さっき何を」
「カヤ様を泣かせるような事があったら私が許さないから!」
「だから聞けよ!」


ウソップはいつだって知らないうちに人に好かれて、その心を離さない。
メリーさんからその話を聞いてからも聞く前も認めたくなかったが、彼はいいところばかりだった。
私もカヤ様に話すウソップのくだらない嘘が大好きだった。



「お前は昔から人の話聞かねえよな。」
「ありがとう。」
「誉めてねぇよ!」
「麦藁がもう出るって呼んでるよ。」
「…お前も来たらいいじゃねぇか。」
「私は行かないよ。」
「そう言うと思ったけどな。」

笑ってそう言うウソップ。
どのぐらい村に帰ってこないんだろう。
もしかしたら一生帰ってこないのかもしれない。



「じゃあもう行くな。」
「死なないでね。」
「当たり前だろ!」
「必ずカヤ様を迎えに来てあげて。」
「ああ。」


カヤ様に毎日仕える私は気づいていた。
カヤ様の気持ちも私の気持ちにも。
このキスを最初で最後のカヤ様への反抗として、私はこれから一生彼女に仕えることを決意した。
私はカヤ様の幸せを祈るのだ。



「元気でな!」
そう言って船に乗り込むウソップは本物の海賊だった。










201004004

ウソップハッピーバースデー
カヤに仕える少女

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