book | ナノ
※過去作を修正したので時系列が古いです
※17巻後半あたり


甲板に出るとぱらぱらと降る雨粒が体を濡らし、突き刺さるような冷たい風が吹いた。
たまらず科学班特製のコートを羽織り、フードを目深に被る。ふと視線をあげると、黒く聳え立つ建物が見えてきた。今日からあそこが新しいホーム。

「風邪、ひきますよ」

優しい音に振り返るとアレンが立っていた。
私と同じフードを被り雨粒をしのいでいる。

「コート着てるから、平気」
「暖かいですよね、これ」
「ほぼ徹夜で仕上げたんだよ」
「なまえがじゃなくて、ジョニーがでしょ」
「もちろん」

アレンは笑って私の隣に並び同じようにホームを見た。
こうして他愛のない話をするのは久しぶりかもしれない。最後に口を利いたのはいつだったか、もう覚えてない。時間が経つのがあまりにも早すぎて、頭が追いつかない。

「着いたらお風呂に入りたいな」
「僕はみたらし食べたい」
「行く前たらふく食べてたじゃん」
「あんなのじゃ全然足りませんよ」

そう言って吐かれた息は驚くほど白かった。盗み見た彼の横顔は恐ろしく端麗で、恐ろしく儚かった。じっと前を見据える目。少し伸びた背丈。線が細くても肩幅は広くて逞しいい。いつものアレンのはずなのに、どこか違和感を覚えた。

「もし僕が、」

雨足が強くなる。
指先が冷えきり痺れる感覚が押しよせたが、私は黙って彼の言葉を待つ。

「もし僕が14番目だったときは、迷わず殺して」

目眩がした。僅かに息を呑んでアレンを見ると、透き通ったグレーの瞳が私を射抜く。
微笑みを浮かべ、「なんてね」とわざと茶目っ気を出す。彼はいま、自分の闇を隠した。中で渦巻く闇を気付かせないため。自分を殺して作った笑みほど痛々しいものはない。

「じゃあ、私も死ぬ」

見上げると、変わらずの曇天。
先ほどまで鬱陶しかった雨粒が不思議と心地よく感じる。

「アレンひとりで逝かせないよ」

なんてね。笑ったつもりが視界が滲んだ。今日が雨でよかった。さすがの彼も涙と雨粒の見分けはつかないだろう。リナリーとジョニーの声がする。隣から視線を感じたが気付かないフリをした。顔をあげたら塞き止めていたものが一気に溢れだしそうで怖かった。
リナリーのイノセンスを視界の隅で捉えると同時、逃げるように甲板を後にした。

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