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※行為を思せる描写があります
※苦手な方はご注意ください


すん、と鼻を鳴らすと微かだが雨のにおいを感じた。
見上げた空にはいつのまにか鉛色の雲が広がっており、頬をなでる風が少し湿っぽい。
あと数分もすれば豪雨になるだろう。
朝に干した洗濯物を取り込んで蝶を追いかけているグリムを呼び戻す。
彼は風呂嫌いなので入れるのも一苦労。雨に降られでもしたら仕事が増える。
今日は課題がてんこ盛りだから風呂に時間をかけてる暇はない。
裸足で庭先に出てグリムを抱き上げると同時、鼻先に雨粒が落ちる。
それを合図にポツポツと無数の雨粒が落ちてきた。
慌てて部屋に戻った瞬間、雨脚は激しくなり、あっという間に景色をぼかして見えなくなった。雨のカーテンだ、なんて。

「濡れちゃったんだゾ」

少し濡れたグリムがくしゃみをした。
雨に濡れたせいか青い炎が弱くなっているような気がする。
バスルームからタオルを取ってやさしく拭いた。気持ちいいのかグリムは目を細めている。ついでにお風呂を沸かそうと立ち上がったとき、足音が聞こえてきた。
ゆっくりではあるけどしっかりとした足取りで砂利を踏みしめる音。
僅かな音をたどるよう玄関に向かうと、ドアがノックされた。引き寄せられるようにドアノブをひねると、雨と一緒に彼は降り込んできた。

「ごきげんよう。監督生さん」

形のいい唇を三日月型に歪ませてから学園長はそう言った。烏の羽を彷彿とさせる黒いマントを雨避けにしてここまで来たのだろう。水分を吸ったマントはいつもより黒々としていてとても重たく見え、学園長のあでやかな美しさをより一層引き立てていた。
雨粒で貼りついた前髪を払ってあげると腕を掴まれ引き寄せられた。
そのまま学園長の腕の中に閉じこめられる。
互いの肌が密着して少し小っ恥ずかしい。つめたい雨のせいで学園長の肌は少し冷えていて、熱を帯びはじめた私の肌に心地よかった。

「いけませんねぇ。相手を確認せずに出てしまっては」
「はじめから学園長だと気づいていました」
「それはそれは。随分な自信だ」

学園長はくつくつと喉を押し殺して笑うと、掌でやさしく髪を撫でてくれた。
雨天の日だけ学園長自らオンボロ寮を訪れてくれる。
魔法使いなのにも関わらず、こうして律儀に徒歩で来るものだから、誰の足音なのかいやでも覚えてしまった。
この世界では全くの無知である私に全てを与えてくれる学園長は生命線だ。
決して失ってはいけない。
だから私は彼から与えられる無理難題もこなしている。捨てられないように、飽きられないように。
私は常日頃から彼のことを考えて行動している。だから自然と理解できてしまうのだ。

「そろそろ来る頃だとわかっていましたよ」
「…おやおや」

その尖った爪と仮面決してを皮膚に押し付けない。気遣ってくれる動作がもどかしくて離れたくないと思ってしまう。そんな欲張りを見透かした学園長は唇を首筋に寄せて甘噛みをした。ぴりぴりと、小さな電流が走ったような痺れに小さく吐息をこぼすと、器用にブラウスのボタンを外していく。予想外の展開にぎょっとした。

「が、がくえんちょ…!」
「シー。お静かに」

動揺を隠せない私の唇に人差し指を押し当て、有無を言わせず、あっという間にすべてのボタンを外してブラウスを剥ぎ取られた。
そのまま床板に体を倒され、露わになった皮膚に唇を落として容赦なく犬歯を突き立てる。
甘美な痛みに全身から力が抜けそうになるが、理性が飛ぶのを懸命にこらえた。
リビングにはグリムもいるのだ。こんなところを見られたら言い訳ができない。
なんとか引きはがそうと必死に抵抗するが、学園長はびくともしない。

「あなたが私の腕の中で藻掻く様を見るのはとても気分がいいです」
「このっ、淫行教師!」
「なんとでもお言いなさい」

どうやら私の抵抗は学園長の伽逆心を煽っているようだった。
辱めを受ける非力な女を見るふたつの眼が爛々と光っているのがなによりの証拠。
徐々に息が乱れるその様はまさに捕食者。ごくり、と生唾を飲み込む音が生々しくて思わず目をそらした。本当に趣味の悪い人。

「もう、限界なんですよ」

学園長は私の顎を掬い上げて唇を奪った。すかさず舌が咥内に侵入し、生き物みたいにうごめく。ザラリとしたその感触に肌は粟立ち、下半身に熱が集中するのが嫌でもわかった。
行為は徐々にエスカレートし、愛撫も激しさを増していく。太ももに微熱を感じた瞬間、体がびくりと跳ねた。そこで学園長の肌は本来の熱を取り戻していることに気づいた。
だんだんと互いの呼吸が不規則になっていく。唇の隙間から漏れる微かな呼吸に、少しずつ性的な快楽が滲みだす。勝ち目はない。そう悟った瞬間、学園長の仮面がゆっくりと剥がれ落ちた。

「美味しく頂きますね」

私、優しいので。

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