Give me all! | ナノ



独り暮らしの自分の部屋に自分以外の人間がいる。
衝撃的な出会い方をしたそいつは妙にこうなんつうか、オレの腕の中にしっくりきて馴染む匂いがして柔らかいっつうか甘いっつうか…とにかくたった数日で、人に見せたくない、手離したくないという子供染みた欲をオレに植え付けた。
酔ってた時とは別人格みてえに従順でいちいち恥ずかしがって、いつも情けない寂しそうな目をオレに向けてくる。
玄関に立ってオレを見るその姿は、例えるなら飼い主の帰りを待つペットだ。
出来る事ならここに閉じ込めておきたかったそいつは、仕方ねえといえば仕方ねえけどあっという間にその存在を知られることになって、当たり前のように周りに打ち解けた。

なんで火神のヤツと普通に喋ってんだよ。
距離近えし、勝手に名前で呼ばせてんじゃねえよ。
つうかなんで赤司に下着なんか買って貰ってんだよ。
服のシュミも悪ぃしその下着だってお前に合ってねえ。
お前はオレの着てれば十分だろ、着飾って外に出る必要もねえよ。
最低限のものは買ってやる、だから赤司に集んな。
いや、お前が集ったなんて思ってねえけど、あの赤司がそんな事したくなるようなスキル要らねえっつうか、なんなのマジ、気に入られすぎ。
だいたいいくらオレの上司だからって、お前赤司の言うこと聞きすぎだろ。
断るって選択肢ねえのかよ。
くだらねえパーティーにまで駆り出されやがって、終わる時間待って迎えに行くコッチの身にもなれっつの。


…だっせえ。
オレのガキ臭え独占欲は膨れ上がる一方だ。




『だ、大輝…』
赤司に連れ出されたパーティーの帰り道、恥ずかしげに小さく呼ばれた自分の名前に思わず口元が緩む。
オレが貸したブカブカのダウンに身を包んだ名前の姿に、名前を呼ばせるたったそれだけの事にじわじわと所有欲が満たされていくのが分かった。
この後が仕事じゃなきゃベッド直行だったっつうの。
こいつの表情や行動はいちいちオレを刺激してどんどん深みに填まらせていく。
ほら、またそうやって…
家に着いて自分はこれからまた仕事だと告げれば、名前の表情は目に見えて沈んだ。
挙げ句、ダウンを寄越せと手を出せば、勘違いしたのか目一杯背伸びをしてキスしてきた。
こんなん耐えきったオレ、MVPもんだろ。
『…いってらっしゃい』
顔を真っ赤にして精一杯の声でオレを送り出そうとするこいつに目眩すら覚える。
さっさと終わらせて帰って来ねえと。
疲れて眠い時以外に早く家に帰りたいなんて、こんな風に思った事なんて一回もなかったのにな。
年が明ける前に帰るって約束した。
帰ったらなんか旨い飯でも食って風呂入ってつまんねえカウントダウン番組でも見て、恥ずかしがるこいつを抱き枕にして布団に入る。
柄にもなくこれからの予定を組み立てたオレのバーに向かう足取りは、今までにないくらい軽かった。

…なんて浮かれてたのは自分だけだったと、人生で初体験の思いをする事態がこれから待ち受けてるとも知らずに。








「ただいま」
シンと静まり返った玄関に少しの違和感を感じてリビングに向かう。
電気は点いてるが名前の姿は見当たらない。
「おい、あー…風呂か」
見もしないテレビをつければ、年越しをスタンバってる芸人たちの笑い声が響いた。
ああ、もうすぐ今年も終わるんだったな。
疲れた体を解しながら寝室へ行き上着を脱ごうとしたところで、さっきよりずっと強い違和感がオレの動きを止めた。
…あいつがいつも着てる部屋着がベッドの隅に綺麗に畳まれて置かれていた。
風呂、入ってんじゃねえのか?
風呂に向かおうとしたその時、ズボンのポケットから着信音がけたたましく響いた。
『あっ!もしもし?大ちゃん!やっと出た!』
「んだよ、でけえ声で喋んな」
『酷い!なかなか出ないのが悪いんでしょ!』
「しょうがねえだろ、さっき仕事終わったんだからよ」
『そんなの知らないよ!それよりちょっと聞いて
!』
「ったく…んだよ」
『大ちゃん今彼女いるんでしょ?』
「…はあ!?オレいつお前に話した、」
『この間お店に忘れたバッグ、さっき大ちゃんちに取りに行ったの。多分私彼女の事びっくりさせちゃって』
「先に連絡寄越せよ」
『したもん!出なかったのは大ちゃんでしょ?』
「…」
『それより!さっき幼稚園の近くにある公園で彼女に会ったの』
「幼稚園の近くって…は?んな遠い所にあいつがいるわけ」
『いたの!泣いてて、裸足でいたんだよ』
「…は?」
『声掛けたら走って行っちゃって、それも大ちゃんちと逆方向だったから心配で』
「…」
『大ちゃん?』
「なんでもねえ。心配いらねえからお前はさっさと帰れよ」
『ほんと?大丈夫?』
「おー。連絡、サンキュ」
『えっ!大ちゃんが私にお礼言うなんてっ』
「うっせえ!切んぞ!じゃあな!」
さつきからの通話を切って迷わず玄関を飛び出し走り出す。
なんで気付かなかった。
玄関にあいつの靴無かったじゃねえか。
オレが帰ってくりゃあいつなら『おかえり』くらい言うし、ソファで寝てるかとりあえずリビングにはいるはずだろ。
『…いってらっしゃい』真っ赤になったあいつの顔が浮かんできた。
走るスピードが上がる。
幼稚園近くの公園って、オレんちからすげえ離れてんじゃねえか。
一人でこの辺出歩いた事なんかねえやつが、こんな時間に何してんだよ。
嫌な感じがモヤモヤと心を侵食し始める。
息を切らせ休まず走り続けてやっと辿り着いた公園には、あいつは愚か誰一人としていなかった。
さっき走ってったっつうならまだこの辺にいるはずだ。
誰ともすれ違わなかったし、ここがダメなら別の公園か。
普段使わねえ頭をフル回転させて考え、結論出したと同時にまた走り出した。
走りながらオレはあいつの事ばっか考えてた。
オレは火神みてえに女に甘くもねえし、赤司みてえになんでも上手く考えてこなせるわけでもねえし、黄瀬みてえに絶え間なくポンポン喋るわけでもねえ。
あいつだって口数多くねえし甘え上手って感じでもねえ、考えてみればゆっくり何か話した事だってなかった。
けど抱き締めりゃあいつの忙しない心臓の音が聞こえたし、恥ずかしがる顔とか態度とかオレを見るあの目にぶっちゃけかなり自惚れていた。
何も拒否しないのをいいことにオレは好き勝手やりすぎたんだろうか。
あいつがずっとあの家にいて、一緒に飯食って風呂入って寝て、働いて疲れたらダラダラして…それはこれからも当たり前に続くと思っていた。
オレは自分の事しか考えてなかったって事か。
「クソッ」
走ってる苦しさも合わさって顔が歪む。
オレがこんなんなるなんてな。

数分で次の目的地に着いたオレはぐるりと辺りを見渡して、視界に入った姿に深い溜め息を吐いた。
…いた。
が、あいつはブランコに座ってぼんやり空を見上げててこっちに気付く様子はない。
呑気にブランコなんか乗りやがって。
このオレがどんだけ必死こいて走ったと思ってんだ。
見付かって…良かった。
じわっと汗が吹き出してきた。
あーあ、なんて声掛けりゃいいか分かんねえわ。
けど、逃がさねえよ。
走りまくって乱れた呼吸が整わないうちに背後からその距離を詰める。
ガシャン!
ブランコの持ち手に両手を掛けた。

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