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バタン…

背後でドアが締まった音を確認して後ろ手で鍵を閉める。
背中でずり落ちそうになった女をもう一度背負い直して、靴を乱雑に脱ぎ捨て我が家に足を踏み入れた。
あ、こいつの靴脱がし忘れた。
まあ後でいいか。

そのまままっすぐ向かったのは寝室。
ベッド脇にバッグを放って、空いた手で掛け布団を捲る。
さっさとこの荷物を放り投げてゆっくり風呂にでも浸かるか。
今日は休みだってのにひでえ疲労感だ。
風呂出たらテキトーに酒でも飲んで…
そんな呑気な事を考えながら、
「よっ、…お、」
よっこらせとジジイみてえな掛け声を出しながら背中をベッドに傾け女を放る。
が…放ったはずが、ぐっと何かが引っ掛かって上手くいかなかった。
自分の背中を手探りすると女の手の感触。
その手がオレの肩の辺りの服を掴んでいた。
「…はあ。おい、手え、離せ」
反応はない。
しかも結構な握力で服を掴んでやがるのか全く離れる気配がない。
っんと、めんどくせえ。
少し強めに腕を掴んで引いてみたがオレの服がずれるだけで意味がなかった。
どんな馬鹿力だよ。
溜め息を吐いて更に強い力で腕を引っ張る。
やっと手が離れたのか、女の腕がずるりとオレの背を這い落ちる。
と思った瞬間、
「っ!?は!?」
「んん」
突然の事に対応できずぐらりと体が傾く。
女が思いっきりしがみ付いてきたんだから当たり前だ。
上半身をベッドに乗り上げ両腕を付いて女に覆い被さる形になったオレは、距離を取ろうと身を引こうとした。
が、それは女によって阻まれた。

「っ、ねえ」
「は?」
「お願、い」
「あ?」
少しだけ力が緩んで出来た距離で女を見下ろす。
目を閉じたまま眉間にシワを寄せ、寝言のように言葉を絞り出していた。
カサついた声が静かに部屋に響く。
「置いて…」
「は?んだよ」
「置いて、いかないでよ」
「!」
「も、やだ…」
「っ」
「全部、全部、忘れたい…」

ドクリ。
わけ分かんなかった。
めんどくせえ、そう思ってたはずなのに一瞬で全身が脈打って…
オレの首に回した手は震えて、薄く閉じられた唇も震えてて、いつの間にか目尻には涙が溜まって…
その涙がツゥっと伝ったのがヤケにスローに見えて…
とにかくなんつうか…すげえ、綺麗だと思った。
けど今度は、コイツにこんな顔させてんのは別れた男なのかとか、クズの為に何涙流してんだよとか、未練でもあんのかよとか色んな事が浮かんできて、会った事もねえクズ男に気分が悪くなる。
なんだよコレ、こんなんじゃまるで…
「っふ、う」
「!」
嗚咽を漏らした女の息が首筋にかかってガキかよってくらいの大袈裟な自分の反応、オレの中で何かが振り切れる感覚がした。







「…やっちまった」

こんな事は初めてだ。
隣で背を向けすやすやと眠る女を見て小さく息を吐く。
不本意ながら持ち帰った挙げ句…黄瀬に何て言われるかと想像して項垂れたが意外にも後悔はしてなかった。
一目惚れだとか全然そんなんじゃねえけど、結局のところこんなめんどくさそうな女をクソ可愛いとか思っちまったんだから。
まともにしゃべった事もねえ、ただ仕方なく持ち帰っただけの女に簡単に落ちたとか笑えるけどな。
「…苗字、名前」
名前…な。
バッグから取り出した保険証を見て名前を口にしてみた。
なんか分かんねえけどすげえ恥ずかしくなってガバリと立ち上がる。
視界が広がって部屋を見渡したオレは思わず口元を引き吊らせた。
「強姦現場かよ…」
まあ、出したしな…そこ責められたら否定できねえ。
床には自分と女の服や下着が散乱して、女の靴がとんでもなく離れた場所に転がっていた。
下着なんか引っ張りすぎたのか脇のところが少し破けている。
どれだけ自分に余裕がなかったのか…目の前のこの状態が指し示してるようで呆れ半分、恥ずかしさは変わらずだ。
下着を拾い上げ、これはもう使い物にならないしゴミ決定。
続いて服と靴を手にしてオレはピタリと動きを止めた。
…コイツは起きたら、どうすんだ?
ふと考えた。
オレを見て状況把握して…怒って張り手でも食らうか、ショックで泣いて叫ぶか、
…それで、さっさと出て行く?
「…」
出て行こうとするコイツを引き留める言葉がオレにはない。
1回、しかも同意もなしにセックスしただけの男が相手を引き留める事なんか出来るわけがない。
強引にここに留めようもんなら監禁罪、犯罪者決定だ。
けど…
全く起きる気配のない女を見下ろして立ち尽くす。
最終的にオレが取った行動は子供じみた情けないものだった。




待て、出て行く気かよ。
服も靴もねえよ…もうちょっと居ればいいだろ。
だから、そのドア閉めろ。
「ん…さみぃ」
女が部屋を出て行こうとしてる。
それを阻止しようとオレは近付いて、女の小さい体を抱き締めた。
ああ、なんかぼんやりしてんな…コレ夢だ。
思った通り、だんだんと意識が覚醒し始めて薄く目を開ければ、目の前には柔らかい髪と妙に鼻に馴染む匂い。
「ん……っん?」
「!」
「…起きた、のか?」
「!う、は、はいッ」
そのまま声を掛ければ体を震わせて女が返事をした。
びびってんな、無理もねえか。
けど悪ぃな…逃がす気ねえんだわ。
髪の隙間からちらりと見えた耳たぶを甘噛みして、そこから這わせた唇を首筋に押し付け痕を残した。
あーあ、ガキ臭えなオレ。
女が何か言い出す前にと布団を剥ぎ取り真っ裸のまま抱き上げる。
驚いたのかしがみ付くように体を寄せてきた女にちょっと気分が良くなったオレは単純だ。
慌てる声を聞かなかった事にして風呂に押し込んでオレは朝メシの買い出しだ。
テキトーに服を着て外に出る。
コンビニで急いで食いもんを買って足早に家に向かうその自分の行動に苦笑する。
風呂入ってんだ。
そんなすぐ上がって出て行かねえだろ。
つうか、出て行けねえんだし。
玄関を開けるとちょうど風呂を出て、オレのぶかぶかのロンTを着た女と遭遇。
すげえムラッと来たのを無視してリビングに向かう女の後を追えば、案の定何かを探して部屋中動き回っている。

「何探してんだよ」
知ってるけどな。
「…私の、荷物と服…」
だろうな、でも残念。
「ああ、アレか」
見えるとこ探しても見つからねえよ。
「何処にあるの?」
教えねえ。
「捨てた」
嘘だけど。
「は?」

呆気に取られる女を見て、すかさず強引に手を掴みソファに引き込む。
逃がさないよう股座に収めて…、会ったばっかの女にどれだけ執着してんだよと自分に呆れた。

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