Never ever | ナノ

3

「!…びっくりした、おはようございます」
「はよ、ス」
朝食の準備をしていた私は物音に気付かず、突然ぬっと現れた黄色い巨体に大袈裟なくらいに体を跳ねさせて驚いた。
欠伸をして涙目で挨拶をするその人は昨日のよく分からない出会いから流れで私の家預りとなった、身元不明の金髪さんだ。
熱は下がったみたいだけどまだ少し怠そう。
食事は摂れるだろうか?
そんな事を考えながら作り終えた野菜たっぷりのお粥の鍋の蓋を開けて彼を振り返るとなんとも素直な返事が返ってきた。
ぐう
「!」
「…っふ、食べられそうですね」
「わ、笑う事ないじゃないスか!」
「や、別に笑っては…ふふ、向こうで待ってて下さい」
「笑ってるし」
頬を少し膨らませながら素直に背を向けた黄瀬さん。
私はどこか影のあるこの人とどう接したらいいかと悩んでいたけれど、こんな風に普通に話す分には大丈夫そうだと少しホッとした。


お粥を綺麗に平らげてお茶を啜る黄瀬さんは、お茶を味わうのとは違う物憂げな表情で目を伏せ何かを考えているようだった。
どうにも話し掛けにくいこの状況に耐えきれなくなってそっと席を立つと、目の前の黄色が微かに動いて私を捉える。
合わさった瞳はこちらが戸惑うほどに不安定に揺れていた。
「本当に何も聞かないんスね」
「…」
「俺の事」
「…聞いて欲しいんですか?」
「っ」
こんな聞き方は意地悪だっただろうか。
けれど仕方のない事だと思う。
私からしてみれば話してくれるなら聞くし、聞いて欲しいのなら自ら話して貰わない事にはどうしようもない。
何をどう聞けばいいかすら私には分からないのだから。
一瞬息を飲んだ彼は深く深呼吸してもう一度私を見た。
「俺が…違う世界から来たって言ったら信じてくれるッスか?」
「え?」
ちょっと、否かなりぶっ飛んだ話に私はどう反応したらいいか分からない。
ともあれいきなり本題らしき話をし始めた黄瀬さんに戸惑っていると彼は更に続けた。
「今日の日付は?」
「今日は…9月、1日」
「ここは東京?」
「はい」
「東京なら…誠凛高校とか、秀徳高校とか、桐皇学園って高校、存在してるッスか?」
「せいりん、しゅうとく?」
どれも聞いた事がなかった。
首を傾げる私にやっぱりなという表情を見せる黄瀬さん。
彼の中で何かが確定したらしい。
「俺は…ここじゃない違う世界から飛ばされて来たんス。自分の意思とは無関係に…二度も」
「と、飛ばされた?」
「だからきっとまたそのうち、消える」
遠くを見るような彼の瞳には覇気がない。
酷く辛い経験でもしたのだろう。
思い出したくないとでも言いたげな顔は見ているこちらまで切なくなる。
彼が違う世界から来たという信じ難い話も、彼のこの表情を見たら本当の話なのかもしれないとさえ思えた。
とりあえずに信じるも信じないもここに預かると言い出したのは私。
もしその話が本当なら、私は彼が元の世界に戻るまで出来る事はしようと思った。
「黄瀬さん」
「何スか?」
「その話が事実だとします。そしたら…前に来た時に、こっちの世界でやり残した事はありますか?」
「え?」
今度は目を見開いて私を見る黄瀬さん。
場を和ませてみようと下手くそに笑ってみたけど彼は驚いた顔のまま固まっていた。
「…信じて、くれるんスか」
「…あ、いいえ?」
「へ!?」
「半信半疑です」
「え、」
「ただ、黄瀬さんは嘘吐くような人じゃなさそうだなって…今勝手に思っただけです」
「…苗字さん」
「はい」
「騙されやすいタイプって言われないスか?」
「黄瀬さんは私を騙してるんですか?」
「え!いや!俺は騙してなんかっ」
「焦ってる所が余計怪しいですね」
「っほ、本当なんスよ!!」
「っふふ、冗談です」
「なっ」
ちょっとおふざけが過ぎたかな。
そう思ったのは一瞬で、立ち上がり身を乗り出した黄瀬さんの人間らしい反応が見られた事に私は安堵していた。
少しはまともに話せる様になれそうだ。
年上をからかったりしたら失礼だけどそこは目を瞑って貰おう。
とか思ったついでに年齢を聞いてみる。
「そういえば黄瀬さんっておいくつですか?」
「…二十歳っス」
「え!?」
なんて事か私の方が年上だった。
黄瀬さんの世界の二十歳はどうなってるんだ。
妙に大人びて落ち着き習ったこの人もきっと私の事を年下だと思っているに違いない。
言わずに逃げ切るつもりが結局追求されて明らかに驚いた顔をされたので、私の仮定は当たりだったようだ。
…あ、笑った。
私の膨れっ面を見て黄瀬さんが笑った。
失礼だな!なんて思ったけれど、初めて見たその笑顔は純粋に綺麗で思わず見惚れてしまった。
彼がこの世界に居る間はこんな風に笑っていてくれればいい。
そう願った。

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