Never ever | ナノ

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金髪の人が寝ている間に私は色々な事を考えた。
何故あんな所に居たのか。
私が声を掛けてからずっとあの場所に居たのか。
何故救急車や病院を拒んだのか。
考えたって無駄な事は分かっているけれど、あまりに謎が多過ぎて正直不安なのだ。
私はこの人を助けて良かったのだろうか。
善意でした事だけれど彼のあの表情を思い出すと余計なお世話だったのかもしれないとも思う。
何にしても今やっと落ち着いてじっくりこの人を観察しているわけだけど…この常人離れした美形はなんだ。
もしかしてモデルや芸能人の卵とか。
サラサラの髪に長い睫毛、肌は白くて柔らかそう。
それから身長だ。
かなり高いと思う。
それに手足も長い。
こんな人がなんでこのマンションの通路なんかに居たのか、とにかく何らかの理由はありそうだ。
「訳ありイケメンさん。あなた何者ですか?」
小さく呟くのと同時、寝ている彼の長い睫毛がピクピクと動いた。
「っん」
「あ」
「…」
「…目、覚めました?」
ゆっくりと瞼が上がり綺麗な瞳を覗かせる。
焦点の定まらないその目はまた今にも閉じてしまいそうだ。
熱は下がっただろうかと手を彼の首辺りに向かって伸ばす。
それを彼の瞳がゆっくりとした動きで追って…
「!!っ、」
「っ痛」
物凄い力で掴まれた。
マンションの通路でされたのと同じように、もしかしたらそれ以上の力で。
同時に見開かれた彼の大きな瞳には同じく驚いた顔の私が写っていた。
「…熱、少し下がったみたいですね」
「え」
「すいません、勝手に看病しました。冷やす事くらいしか出来てないですけど」
「…」
「あの」
「?」
「私…別に何も聞きませんから」
「え?」
私の言葉に手を掴んだままの状態でポカンとしている。
私の方も自分で言っておいて何故突然こんな事を言ったのだろうと首を傾げる。
脳裏に焼き付いた彼のあの切なげな表情のせいだろうか。
何にしても彼の全てを拒絶するような雰囲気に、私が歩み寄ろうとしても無駄だろうという事だけは分かった。
「この部屋、自由に使って下さい」
「え、ちょっと」
「弟が使ってた部屋だから色々使えるものあると思うので。適当にどうぞ」
「何言って、」
「帰れるなら帰って貰って構いませんし、困っているなら遠慮なくここ使って下さい」
「…」
「?」
「キミ…俺の事、知ってるッスか?」
「いえ」
「そ、そうッスか」
「あ、すいません」
「いや、いいんス。そういう事じゃないんス」
「…その喋り方、癖ですか?」
「…へ?」
なんとなく会話が成り立ちそうになって来て思わず出て来たのは素朴な疑問。
聞き慣れない妙な語尾が気になって尋ねれば、言われた本人は意表を突かれた様な顔をしていた。
「すいません。ちょっと変わってるなって思って」
「あ、いや…癖、なんスかね?そんなストレートに言われた事なくて」
「ごめんなさい」
「いや、謝らなくても」
「…」
「…」
妙な沈黙が続いた。
けれどさっきまでの固い雰囲気がほんの少し和らいだ気がする。
それでやっと気付いたのだけど私の手は未だ彼に掴まれたままだ。
始め程強くなく、というか今は掴むというよりは添えると言った方が正しいかもしれない。
視線だけそっとそちらに向けるとそれに気付いたのか彼の手がビクッと揺れた。
「っごめん」
「…大丈夫です」
大袈裟なくらいの勢いで手が放され、別に親しい相手にされたわけじゃないのに少し傷付くくらいのその行動にきっと私の顔は歪んだのだろう。
ナーバスになっているのか元々そういう性格なのか、何れにしても他人である私がずっと一緒に居る事は彼にとってもストレスに違いない。
「も」というのはつまり私も今よく分からないストレス的な何かを感じている気がするから。
私は立ち上がり下手くそな作り笑いを向けた。
「とりあえず…あの、ご自由に」
「え」
「出て行かれるなら鍵を閉めなきゃなので一声掛けて下さい」
「ま、待って!」
「はい?」
「黄瀬」
「ん?」
「黄瀬涼太。俺の名前ッス」
「黄瀬さん」
「あの…キミの、名前は?」
「…苗字名前です」
「苗字さん、」
「はい」
「すんません。お言葉に甘えて…少しだけ此処に居させて下さいッス」
「はい、どうぞ」
申し訳なさそうに少し頭を下げた黄瀬さんに苦笑いを溢すと、聞き取れるギリギリの小さな声で彼は自嘲気味に呟いた。
「俺が消えるまでの少しの間だけッスから」
『消える』という言葉には聞き覚えがある。
彼はその言葉に何か執着があるのだろうか。
それは私に知る術もなければ然して興味も沸かないのだけれど、とりあえず少しの間とはいえ同じ屋根の下に住むのだから怖い事なら止めてもらいたい。
自ら命を絶ったり何か危険な事に巻き込まれたりって事が有り得ないとも言い切れない。
だとしても彼を問い質そうという気もないというのが実情だ。
そんな様々な思いを飲み込んで彼の独り言を流す私は人として間違っているかもしれない。
どうか何事もなく彼がここを出る日が来ますように。

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