Never ever | ナノ

23

黄瀬さんの試合を観に行った翌日。
今私はちょっとお洒落なカフェで姿勢良く座っている。
手元には見覚えのある1枚のチケット、目の前にはにっこにこ笑顔の青峰彼女さん。
こうやって向かい合わせに座る私たちは周りから見たら普通に友達にでも見えるだろうか。
いやいや…出会って数日、会うのも2回目というなんとも微妙な立ち位置だ。
友達と呼べるかと言ったら答えはノー。
でも彼女はすごく優しくて社交的で、口数の少ない私とごく自然に会話をしてくれていた。
何故二人で会っているのかといえば昨日彼女から連絡があったからなのだけど。
青峰さんに連絡先を渡してまさかその日のうちに、というか本当に彼女から連絡が来ると思っていなかった私は彼女の行動力に驚かされた。
すごい…思い立ったら即行動って感じの人なのだろうか。
身を乗り出すようにして私を覗き込んで話し出すその姿は、きっと何にでも一生懸命なんだろうなと思えて好感が持てる。

「今週末また試合あるんですよ」
「え」
「あ、これ!職場でチケットが手に入るんです」
「そう、なんですか」
「はい!なので是非!」
「な、なんで私に?」
「え?だって!」

『楽しかったって名前さんが笑ってたって大輝が教えてくれて』
なんて、ニッと笑って言われてしまったらこれ以上何故だなんて聞けなかった。
私、あの時そんなに笑ってたかな。
青峰さんって意外と人の事見てるんだなと苦笑いだ。
「ありがとうございます。チケット、有り難くいただきますね」
「良かった!また楽しんできてください!」
「ありがとうございます。今度の試合も同じ対戦カードですか?」
「あ、次は大輝のチームじゃないんですよ」
「え?」
「勿論涼太のチームの試合ですけど相手は別のチームで、」
「りょう、た?」
「え?あ…」
思わず声に出してしまった。
私の反応を見た彼女は少しマズイって顔をした。
青峰さんの友達だしきっと仲もいいんだろうなとは思っていたけど、親しげに『涼太』と口にした彼女に多分私は少しだけモヤモヤしたんだと思う。
自分では呼べもしなかったくせに。
「黄瀬、選手とやっぱりお友達とかなんですか?」
「あ、そんな感じです。ごめんなさい…今きっとすごく嫌な思いしちゃいましたよね」
「いえ、あの…全然、気にしないで。いつもそう呼んでるなら私に気を使うことないですよ」
「名前さん」
「私、バスケの試合観れてホント感動したので。青峰彼女さんには感謝してます。ありがとう」
「そんな!お礼なんて」
「黄瀬さん、すごく輝いてて…楽しそうで…ホントに行って良かったなって」
「!」
「私…バスケット選手の黄瀬さんの、ファンになりました」
「…」

ふと彼女が少し顔を引き締めて口を閉じたので、なんとなく空気が変わった気がしてじっと言葉を待った。
それは正解だったようで、彼女から出た言葉に私は全身がどくんと脈打つような感覚を覚えた。
「名前さんって、普通の人と違う感じします」
「っえ」
「…私みたいに、」
「え?」

…どういう、意味?

「…!あ、いや!ごめんなさい!普通と違うって変な意味じゃなくて!全然悪い意味じゃ!あーっ、何言ってんの私!」
我に返ったように慌てて言葉を探す彼女を呆然と見つめる。
彼女の言葉に何か深い意味を感じて心がざわざわと落ち着かない。
「…変な事言ってごめんなさい」
「そ、そんな…落ち込まないで下さい」
「あの、こんな状況で言うのもなんなんですけど、」
「?」
「私と、友達になってくれませんか?」
「え」
ポカンと呆気に取られる私を不安げに見つめる青峰彼女さんはじっと私の返事を待っているらしい。
話の流れがおかしいような気がするけどどうなの。
過去に友達になってくれと言われて友達になった事なんてあっただろうか。
こんなのは初めてだと思いながらもそれはこの世界に独りやって来た自分にとってやっぱり嬉しい事であって、断る理由なんてどこにも見つからない。
「あの、私で良ければ」
「っ良かった!」
嬉しそうににっこり笑った彼女に自分も笑い返す。
上手く笑えてたかは分からないけど、彼女の笑顔はなんだか私を安心させてくれるというか…なんだろう、同じ空気を感じるっていうのかな。
さっきの彼女の『…私みたいに、』って言葉が何を示しているのか自分なりの解釈をするならば、否そう願っているだけかもしれないけれどもしかしたら青峰彼女さんは…


私と同じ事を体験した人なんじゃないか。


そんな気がしてならなかった。





「苗字?」
「…あ、笠松さん」
「こんな所でお前に会うと思わなかったな」
「あー、私が場違いなんだと思います。笠松さんはこの辺り庭ですか?」
「いや、庭って程でもないけどな。で、何してんだ?」
試合が行われる体育館のある最寄り駅で笠松さんと偶然出会った。
多分向かう先は私と同じだ。
青峰彼女さんから貰ったチケットを取り出して見せると少し驚いた顔をされた。
「バスケ好きなのか?」
「はい…あ、でも正確には先日好きになったばかりって感じですかね」
「ん?」
「たまたまチケットを譲り受けて」
「実際観てどハマりしたのか」
「です」
「いいだろ?バスケ」
「はい、面白いです」
自慢気に話す笠松さんの嬉しそうな顔はなかなかレアだ。
すると彼も財布からチケットを取り出して私に見せてきた。
「あれ、2枚?」
「こっちは俺が買ったやつ。2階席な」
「こっちは…なんだか物凄い席の予感がしてるんですけど」
「ああ、ベンチのすぐ裏だな」
「…うわ、それは凄いですね」
「黄瀬が寄越したやつだからな」
「!」
「近くで怒鳴って気合い入れてくれとか言いやがって…俺は遠くから試合全体を観たいんだって言ってるのによ」
「、はは」
「ってわけだから」
「ん?」
言いながら笠松さんがVIPチケットを私に突き出した。
内心恐ろしく動揺している私には全く気付いてないらしい。
これはやはり、
「お前にやるよ」
「…」
予感は的中だ。

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