Never ever | ナノ

21

『どうせこうなるんだから…やっぱり始めから誰とも関わらなきゃ良かったんスよ』

あの日、黒子っちに言ったこの言葉は本心でもあってそうでもなくて…結局今の俺自身を苦しめる言葉になっていた。
それから…
あの日、黒子っちに言われた言葉を俺は一言一句逃さず覚えている。


『…本当に…そう思いますか?』
『キミは本当にそう思っているんですか?って聞いてるんです』
『それは違います、黄瀬くん』
『…分かりません』
『分かりませんよ。臆病者の気持ちなんて』
『関わらなければ良かったなんて、キミは本当にそう思っているんですか?』
『僕には分かりません』
『ここに戻ってきた始めからずっと…キミの目は苗字さんにもう一度会いたいと訴えているようにしか見えません』
『なのに何故否定的な事ばかり言うんですか』



青峰っちのチームとの試合を明日に控えた俺はいつもの様にチームの練習場に向かった。
朝イチの練習は眠くて辛いけど、明日青峰っちと全力で戦う為にはこのくらいで文句なんか言えない。
久しぶりの対戦に心が踊っていた。
こういう時は余計な雑念を振り払えるから気分はいい。
「おはようございます、黄瀬くん」
「ひっ!!」
少し早めに練習場に着いてすぐ、突然真横から声が掛かって思わず飛び上がった。
「く、黒子っち!」
「朝から驚かせてすみません」
「びっくりしたッスよ!あ、おはよッス」
そこにはいつも通りの黒子っちが居た。


まだ人も集まらない時間だったから黒子っちを休憩室に通して自分もベンチに腰掛けた。
大学に行く前にちょっと寄ったという割には、いつからあの場所に居たのか完全に体を冷やしきってしまってブルブルと震えている。
温かいコーヒーを差し出すと震える声で『すみません』と言って両手を添えた。
黒子っちがここに来るのは初めての事でちょっと戸惑っている。
「大事な試合前にすみません」
「え?」
「青峰くんとの試合前に。あの…練習、大丈夫ですか?」
「え、ああ。まだまだ始まらないし平気ッスよ。俺がちょっと早く来ただけだし」
「そうですか」
そう言って黒子っちは一つ息を吐き出すと、幾分か鋭い目をしてまっすぐに俺を見た。
緊張感のある瞳に気圧されて黙り込む。
ゴクリと喉が鳴る音がした。

「黄瀬くん」
「っ、な、なんスか」
「僕は今から君を凄く動揺させてしまう事を言うかもしれません」
「へ、何言ってんスか」
「でもこれは多分、君にとって重要な事です。憶測で物を言うのは本当は良くないって分かっているのですが、」
「え?」
「その前に二つ、僕に教えて下さい」
「…何スか?」
「黄瀬くんが出会った苗字さんという方は、」
「えっ!く、黒子っち!?」
「苗字さんは…君の事を『黄瀬さん』と呼んでいましたか?」
「!」
「それから…腕時計」
「っ」
「彼女も君と同じものを持っていませんか?」
黒子っちの話に目が回る程の衝撃を受けた。
この人が憶測で物を言うのはかなり、いや相当珍しい。
って事はつまり、この人の中でほぼ確定された憶測。
たった二つしか質問されてないのに、黒子っちは俺の反応を見て確信の表情に変わってる。
俺も俺で…それだけの事でもしかしたら彼女が、という考えが浮かんで思わず拳に力が入った。

「先週、僕と奏さんは多分その苗字さんと会いました」

握り締めていた拳にじわりと汗が滲んだ。



「黄瀬!」
「!」
「どうした!」
「すんませんっ」
「調子悪いのか?」
「全然!平気ッス!」
「なら集中しろ!青峰に全部持ってかれんぞ!」
「っはい!」
主将に喝を入れられて気合いを入れ直す。
こんなんじゃ駄目だ。
主将の言う通りこのままじゃ青峰っちに負ける。
黒子っちとの話にはかなり動揺した。
それは間違いない。
けど決して悪い動揺だけじゃなくて…もしかしたら彼女に会えるかもしれないという希望が湧いた。
あまり期待しちゃいけないのは分かってるけど、それでもこの興奮を抑えることはなかなか出来ない。


『買い物をしている時、こちらを振り返って立ち尽くしている女性が居たんです』
『その人はボーッとしていたと言っていましたが…不思議な雰囲気というか、落ち着いているけれど心許ないというか…すごく不安定に見えて』
『君が持っているのと同じ様な、女性が着けるにしては少し大きめの時計に目が行って、その事に触れたら酷く動揺していたんです』
『それから…』


君に似た後ろ姿の男性に向かって

彼女は

『黄瀬さん!』

そう叫んでいました。



黒子っちが会ったその人が彼女だったとして…
名前さん、あなたも俺に会いたいって思っててくれてるって…自惚れててもいいッスか?
俺は、会いたいッス。

prev / next

[ back to top ]

×
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -