Never ever | ナノ

18

「………はぁ」
俺が元の世界に戻って約3ヶ月。
俺がここから消えてたのは残暑厳しいあの夏の日のほんの数分の出来事で、けどあの時から季節は変わって今冬を迎えている。
この3ヶ月は酷く長く感じた。
現在の俺はというと…バスケにはしっかり向き合ってるけど、正直心の中は空っぽって感じでなんだかスースーしてる。
もうすぐ本格的に冬だしそういう寂しさも相まってこんな状態なんだろうけど…
やっぱり俺は彼女の事を忘れられずにいた。


「黄瀬ぇ!」
「いったあああ!」
「何シケた面してんだ、めんどくせえ!」
「っ笠松先輩!酷いッス!」
笠松幸男。
この人はずっと変わらない。
こうやってすぐ肩パンしたり蹴飛ばしたりして来るけどそれにはちゃんと優しさがあって、ほら実際今だって悄気た俺を元気付けようとしてくれてる…
「いいい痛い痛い!頭グリグリは止めてっ」
「うるせえ!」
…はずだ。


先輩の滅多に見ないスーツ姿になんか変な感じと思いつつ席に促す。
けどドカリと目の前の椅子に腰掛けた先輩はいつもの先輩だった。
「調子はどうだ?」
「上々ッス」
「足の具合」
「大丈夫ッスよ」
「…足」
「…大丈夫」
「…」
「…えーっと…天気悪い日はちょっと、まだ…疼きますケド」
「だろうな。俺を欺けると思うな、馬鹿」
「…はぁ、先輩には敵わねッス」
こうやって笠松先輩と話してると高校時代を思い出して懐かしくなる。
きっと相変わらずな先輩だからこそ居心地がいいのだ。
ああ、懐かしい。
海常は居心地が良かった。
皆が仲良くて、厳しいけど優しい先輩たちが居て、柱である笠松先輩が居て。
この人と一緒にバスケが出来た事を本当に幸せだったと思う。
恥ずかしくて今更言えねえッスけど。

「あ、そういえば先輩。ボタン付けとズボンの裾、大丈夫だったんスか?」
「あー、そういやお前にも迷惑掛けたな」
「そういやって、夜中に電話あったから何事かと思ったんスよ?」
「悪い悪い。ほら見ろ、ちゃんと直して貰った」
「直して、貰った?誰に」
「ああ、最近同じ階に越してきた女で、」
…固まる事数秒。
俺の脳内で過去の先輩の女の子に対する態度の記憶が巡る。
あの、あの笠松先輩が、女の子に、
「お、女ぁ!?笠松先輩が!?」
「きっ、黄瀬!うるせえぞ!」
「っすんません!凄い衝撃的だったんで!だって先輩が」
「まあ妥当な反応だよな、俺も不思議だ」
「はあ」
顎に手を当てて首を傾げる先輩を呆然と見つめる。
これを森山先輩辺りが知ったらどんな反応をするだろうか。
「でもなんかよく分かんねえんだよな、アイツ」
「分かんない?」
「妙な空気持ってるっつうか、まあとにかくいいヤツって事は分かる」
「先輩は人見る目あるッスからね〜」
「何ニヤニヤしてんだ」
「いや、先輩にも春が来たのかなと」
「来るかクソ馬鹿」
「辛辣〜」
先輩の頬が上がった。
春が来たにしても違うにしても、女の子の事でこんな楽しそうに話す先輩はレアだ。
どんな子なのか気になる所だけど邪魔にならないようにそっとしとこう。
陰ながら応援してるッスよ、先輩!
そういう意味で笑ったのに『おい!何笑ってんだ、シバくぞ黄瀬』ってまた言われた。
それにしてもその子、めちゃくちゃ器用な子なのかな。
ボタンもどこが取れてたのか分からないくらい揃って直ってるし、裾だって縫い目が表に出ないくらいに綺麗だ。
そういう子はきっと家事全般出来て料理なんかも上手いんだろう。
彼女みたいに…
優しい味のお粥作ってくれたり、サンドイッチを用意してくれたり、おにぎりを持ってきてくれたり、パンケーキに初挑戦してくれたり…俺のリクエストでオニオングラタンスープも、
「黄瀬?」
「!」
「なんだよ、あんま調子良くねえのか?」
「っ全然!平気ッス!昔の事思い出してただけッスよ」
「昔?」
「…海常の事ッス」
「おいおい、そんな昔じゃねえだろ。俺を爺さんにする気かよ」
「あはは!先輩おじいちゃんになっても俺の事蹴飛ばしてたらギックリやりますよ?」
「はあ?うるせ!お前が俺をイラつかせなきゃ済むんだよ!」
「ええ〜」
ああ、そういえばもう1つ思い出した。
彼女と笠松先輩、確か同じ年だったっけ。
俺の事年上だと思い込んでて敬語だしずっと『黄瀬さん』呼びだったし…結局最後まで『涼太』って呼んで貰えなかったんスよね。
って、俺いちいち名前さんの事思い出し過ぎ。
なんなんスかね、ホント。
これじゃいくら時間が経っても忘れるなんて無理じゃないッスか。
女々しいな、俺。
名前さん、元気でやってますか?
俺はあなたに…

prev / next

[ back to top ]

×
「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -