Never ever | ナノ

14

『黄瀬くん!』
『黄瀬!居やがった』
『…黒子っち、青峰っち』
『良かった。探しましたよ、黄瀬くん』
『大丈夫かよ。立てるか?』
『---』
『おい、黄瀬!』
『どこか痛みますか?』
『--------』
『黄瀬くん?』
『----------------------』


倒れている黄瀬さんが見える。
遠くから男の人が二人駆け寄って来て…青峰、この人が青峰さん、と黒子さん。
ゆっくりと起き上がる黄瀬さんに手を貸す二人。
二人の声は聞こえるのに何故かだんだんと黄瀬さんの声が聞こえなくなって…俯いて続けて何か言ってるみたいだけど私には何一つ聞き取れなくなった。
ねえ、黄瀬さん。
オニオングラタンスープ、出来てるよ?
早く食べないと美味しくなくなるよ?
ねえ、

「黄瀬さん、…あ」

夢…そんな事分かってた。
夢だと気付いていたのに認めなかったのは、少しでも彼の姿を目にしたかったからなんだと思う。
夢でいいから会いたいなんてよく言ったものだ。
無心でオニオングラタンスープを作り終えて、なんだかもう何も考えたくなくなった私は無理矢理に目を閉じて睡魔を呼び寄せた。
ソファに寝転がって、目が覚めたらきっと黄瀬さんが笑ってるなんて夢見がちな思考をシャットアウトして暗闇に意識を放る。
まあ、当然そんな都合のいい夢みたいな事あるわけないんだけど。
「…黄瀬さんが居た事自体、夢だったのかなぁ」
この考えに至るのが一番の良策だと私の脳が、心が訴える。
けれど口には出してみたものの、彼と過ごした1ヶ月という時間がそう思わせてくれるはずもなかった。
私には黄瀬さんが居た毎日が、彼の表情が声が、思いの外染み付いてしまっている。



「黄瀬くん」
「…」
「おかえりなさい」
「!」
「話、聞かせてくれますか?」
「っ、…黒子っち」
全てを見透かした様な黒子っちの言葉に、彼女と過ごした日々が頭いっぱいに蘇る。
確かに俺は名前さんに出会ってそして1ヶ月という時を過ごした。
こっちでのほんの数十分の時間を。
戻ったら全部を忘れさせてくれればいいのに、俺は彼女の顔を表情を声を言葉をきっと全部を漏れなく覚えている。
ただ苦しいだけだ。
『なんでまた俺が』という運命を恨む気持ちと、『なんでまた俺は』と自分の情けなさに呆れる気持ちとに押し潰されそうだ。
全てを黒子っちに話し終えて大きく溜め息を吐き出す。
顔色一つ変えずに黙って話を聞いていた黒子っちに苦笑いを溢した。
「どうせこうなるんだから…やっぱり始めから誰とも関わらなきゃ良かったんスよ」
「…本当に…そう思いますか?」
「…、どういう意味?」
「キミは本当にそう思っているんですか?って聞いてるんです」
「そうッスよ!だから言ってるじゃないッスか!」
「それは違います、黄瀬くん」
「!」
黒子っちはまっすぐ俺を見てハッキリと俺の言葉を否定した。
俺を非難する様なその瞳に一瞬たじろぐも、ジワジワと嫉妬心が心を蝕んでいく。
「黒子っちには、分かんねッスよ」
「…」
「全部が上手く行ってて…」
「…」
「分かんねッスよ…俺の気持ちなんか」
「…分かりません」
「っ」
分かってたまるか!
黒子っちにも青峰っちにも俺の気持ちなんて分かるわけない!
二人と俺は違う!
異世界に飛ばされて優しい人に出会って両思いになって、離れ離れになったって結局もう一度会う事が出来て幸せな今を過ごしてて!
そんな黒子っちに俺の気持ちなんか分かるわけねえんスよ!
好きになった人にはもう俺が敵わない相手がいた!
どんなに思ったってただ苦しいだけで!
俺は二人の仲を引っ掻き回した悪者で!
もう未練なんてないけど、もう心から人を好きになるなんて出来なくなった!
もう傷付きたくない!
なのに、なのにっ!
「分かりませんよ。臆病者の気持ちなんて」
「っな、」
黒子っちが俺を見る目は哀れみでも蔑みでもない、鋭い好戦的な目だった。
戸惑う俺に構わず続ける。
「関わらなければ良かったなんて、キミは本当にそう思っているんですか?」
「っだから、さっきからそうだって」
「僕には分かりません」
「何が言いたいんスか!」
「ここに戻ってきた始めからずっと…キミの目は苗字さんにもう一度会いたいと訴えているようにしか見えません」
「っ」
「なのに何故否定的な事ばかり言うんですか」


心配して家まで送ってくれた黒子っちと別れ、誰もいない真っ暗な部屋のドアを開けた。
「ただいま」
『黄瀬さん、おかえりなさい』
聞こえるはずもない記憶の中の彼女の声が響いた。
あれから黒子っちの言葉がずっと頭から離れない。
そうだ、俺は…
無理だと分かってはいても、彼女が俺の事をなんとも思ってなくても。
俺はもう一度彼女に会いたいって思ってる。

名前さん、
今、どうしてますか。

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