Never ever | ナノ

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『はあ?黄瀬がいない?』
『はい』
『さっき一緒に出てっただろ』
『はい。でもちょっと先の曲がり角で別れて、黄瀬くんが歩いて行った先で何かが落ちる様な音がしたので気になって見に行ったんですけど』
『走って帰ったんじゃねえの?』
『黄瀬くんのスマホが落ちていたんです』
『落として気付かねえで行っちまったとか』
『そうでしょうか』
『なんだよ』
『あんなに音が響いたのに当の本人が気付かないなんて事』
『…』
『周りを探してみたんですが人の気配すらなくて』
『…』
『なんだか妙な胸騒ぎを感じるのは僕だけでしょうか』
『…いや。テツ…多分今オレとお前、同じ事考えてると思うぜ?』
『青峰くんもですか』


黄瀬?
黄瀬さんの事?
テツ?青峰くん?
誰?
ぼんやりしてて人の顔もよく見えない。


「…なんの夢だ」
よく分からない夢を見てわけの分からないまま目が覚めた。
黄瀬さんの名前が出て来たけれどそこに本人は不在。
輪郭のハッキリしない二人の男の子が会話しているのをただ見ているだけの夢だった。
モヤっとしながら部屋を出ると、ちょうど弟の部屋から出て来た黄瀬さんに出会した。
「おはよッス」
「おはよう」
「早いッスね、今日」
「んー、なんか目が覚めちゃって」
「怖い夢でも見たんスか?」
「怖くはないけど不思議だったかな…、とにかくよく分からない夢」
「不思議な?」
首を傾げて考えるポーズになった黄瀬さん。
彼も夢見が悪かったのだろうか。
とりあえずお腹が泣き出しそうなのでまずは朝ご飯だ。
「うん…まあいいや、ご飯にしよう」
「あ、了解ス!今日は俺も手伝うッスよ!」
「あれ、そういえばストバス、」
「へへ、今日は休息日にしようかなって」
「たまにはいいんじゃない?じゃ、一緒に…あー、やっぱ」
「手伝うッス!!」
「っ」
休んでいていいと言おうとした声は身を乗り出すようにしてきた黄瀬さんに遮られた。
いや…『休んでて』って言おうとしたのは確かだけど思ってたのは違う。
なるべく深く関わらないようにっていう意識が働いた。
『あんまり、俺に関わらないで欲しいッス』
あの事について黄瀬さんは謝ってきたしもう気にする事もないんだけど、自分自身がそう思ってしまっていたのだ。
これって…所謂防衛本能っていうかなんていうか…
あんまり仲良くなるのも考えものというか。
それはつまり
「誰とだってお別れは寂しいもんだよね」
うん、そういう事。
「苗字さん?」
「なんでもないよ。ご飯作ろうか」
「了解ッス!」
不思議そうな顔をした黄瀬さんをキッチンに促せば笑顔で返事が返ってきた。
その眩しい笑顔に心臓の辺りが少しキュッとしてしまった事には気付かないふりをする。



『涼太が!?』
『はい、確かめる術もないんですが…多分』
『でもなんで黄瀬っちだけ?』
『それも気になる所ですけど』
『もうこんな事は二度とねえと思ってたけどな』
『はい』
『か、帰って来るよね』
『僕たちも帰って来れたしお二人も此処にいる。黄瀬くんもきっとまた帰って来れると思います…きっと』
『そうだよ!絶対大丈夫!』
『んな顔すんじゃねえよ、すぐ戻ってくんだろ』
『うん』

2日目のその夢は続きなんだろうか。
夢って続きが見られるもの?
登場人物に女の子が二人増えた。
って言っても前回の夢と同じ様に輪郭がぼやけて顔が分からない。
一人の子は黄瀬さんの事を『涼太』と呼んだ。
所謂特別な存在の女の子?
まああんなにかっこいいんだから実際元の世界で彼女の一人や二人、いや二人居たら駄目だけどきっと居るはず。
だからこその『関わらないで』か…とちょっと思ってみたり。
なんとなくモヤッとする。
自分の意思とは関係なしに自分の中に良からぬ何かが暴れ出そうとしているみたいな、夢の中なのに。
なんなの、本当に。
こんな感じで不本意にもぐっすり眠れない日が数日続いた。

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