Hold me more! | ナノ

22

「青峰っち!おめでとーッス!」
「おめでとうございます!」
「おめでとう、大輝」
「青峰。ほら、ケーキ作ってやったぞ」
「…なんでまたこの面子なんだよ」

8月31日。
大輝の誕生日を皆で祝う事に決まったのは前日だった。
本当は二人で何かしようかと考えていたけれど、黄瀬さんと火神の彼女ちゃんと火神さんがせっかく声を掛けてくれたのでお昼まで貸し切りにしたお店で小さなパーティーを開くことになったのだ。
それを今朝私が話したら一気にご機嫌は急降下。
主役の本人がこんなに不機嫌な顔で先行き不安だけれど、きっと本当は嬉しいんじゃないかと思っている。
「ったく朝からめんどくせえ」
「だ、大輝」
多分。


「青峰っち露骨過ぎ!いくらなまえっちと二人が良かったからって!」
「あ?うるせえ」
「そうですよ青峰さん!パーティーの後はなまえさんの事好きにしちゃっていいですから今は楽しんで下さい!大我さんが青峰さんの為にケーキ作ってくれたんですよ!?」
「はあ?んなの当たりめーだろ。つうかケーキ作れとか頼んでねえし」
「うわ!なんなんですか!お祝いだし黙ってようと思ってましたけど!やっぱりなまえさんは青峰さんには勿体ないです!!!!」
「…はあ?おい火神、お前よくこんな女と結婚する気になったな」
「青峰さん!どういう意味ですか!」
「そのまんまだろ」
「ちょっと二人とも!落ち着くッス!」
「黄瀬さんは黙っててください!」
「うるせえぞ黄瀬!」
「ひどっ!」


「火神さん、ごめん」
「いや、俺の方こそ…つかアレほっといていいのか?」
「あー…うん。本気で嫌がってるわけじゃないと思うし」
「ああ、まあそうかもな」
お祝いムードの欠片もない三人を火神さんとカウンターから見つめる。
ギャーギャーと言い合っているけど険悪でもないしちょっと楽しんでいるみたいにも見えるその光景に笑みが溢れる。
それは火神さんも同じだったのか彼も温かい目で見ていた。



「まだ不機嫌なの?」
「…別に」
「皆は仕事前なのに大輝の為に」
「あー、わーってるよ!」
「うん、そっか」
お昼に開店したお店でランチをご馳走になって、私たちは皆と別れた。
私たちはお休みを貰っているけど三人はいつも通りの仕事に戻っている。
少し申し訳ないとは思うけれど、今日という特別な日はどうしても一日彼と一緒に過ごしたかったのだ。
「大輝、何したい?」
「セックス」
「…他には?」
「朝の続き」
「…他」
「ない」
「ちょっと!それしか考えてないの!?」
「お前の事」
「!?!?ずっ、狡い、それ」
「何がだよ」
「なんかもう…いいや。…好き」
「っぶ、なんだそれ」
「今日はなんでも素直に言うって決めたの」
「へえ、そりゃあいい心掛けだな」
他愛もない話をしながら行き先も決めずにただ歩く。
今日は嫌味なくらい晴れていて暑いけど、そんな暑さも大して気にならないくらい私は二人の時間に幸せを感じていた。
彼も同じように感じてくれていたら嬉しい。



結局特にイベントらしい何かをするでも行くでもなく、ゲームセンターに行ったり映画を観に行ったりして時間は過ぎて行った。
考えてみたらこんなにデートらしいデートなんてした事がないなと思う。
だから妙に新鮮でまるで学生の頃に戻ったみたいな気持ちになって、私だけがはしゃいでしまった様な気もしていた。
夕食のラーメンを咀嚼しながら隣に座る大輝をちらりと盗み見る。
誕生日の夜にラーメンって…と思ったけれど大輝が食べたいというのだから仕方ない。
「…なんだよ」
「ホントにここで良かったの?」
「お前、この店のオヤジに喧嘩売ってんのか」
「えっ!違う違う!そうじゃなくて」
「いーんだよ、オレが食いたかったんだから。つうか誕生日だからっていちいち色々気にすんな」
「…うん」
頷いた私に満足したのか大輝は薄く笑ってラーメンのスープを啜った。
汗が一筋こめかみから顔のラインを伝って首筋に流れるのをボーッと見つめる。
その汗の一つでさえ愛しいと思ってしまった自分にハッとして前に向き直った。
変態染みてる。


お店を出て、夜になっても変わらない暑さを感じながら家への道を歩いた。
帰宅後すぐにお風呂に向かった大輝を見送って、私はバッグからラッピングされた小さなプレゼントを取り出してソファに腰を下ろした。
こっそり買っておいたし彼にバレてはいないと思うけれど、喜んで貰えるか不安で仕方ない。
プレゼント探しは想定外に迷わず決まった。
何を買うかも定まらないままたまたま入ったアクセサリーショップで、もうこれしかないと思えるものに出会ってしまったから。
「お先」
「っあ、早かったね」
「シャワーだけだし。お前は?」
「あー、えと…これ、渡してから」
「ん?」
「プレゼント。改めて…おめでとう」
「…おう」
一瞬目を見開いて驚いたみたいだったけれど受け取ってくれた。
私の隣にどかりと腰を下ろした彼がカサカサと包みを開けるのをただじっと待つ。
中身を取り出した大輝はそれを見てまた少し驚いたようだった。
プレゼントの中身はブレスレットだ。
濃紺の…そっくり同じものではないけれど彼が私に着けてくれたものによく似ている。
「あ、あのね」
「コレ…」
「ごめんなさい!私実は大輝に着けて貰ったブレスレット、大輝が帰って来た日に失くしちゃって!」
「…ああ、だから泣いてたのかよ」
「ご、ごめんなさい。それで…今度はその、私が…大輝にそういうの、着けて貰いたかったというか、その」
「…」
「大輝の誕生日をお祝い出来た記念みたいなもので…私のただのエゴなんだけど」
「へえ…じゃコレはもうオレのもんだからオレの自由にしていいって事だよな」
「?それは勿論」
包みをテーブルに放ってブレスレットの金具に手を掛ける姿を見つめる。
手首に着けるなら私がやった方がいいかもと手を伸ばすと、彼は突然私の目の前で金具部分を素手で千切ってしまった。
ぶちりと部屋に音が響く。
「!」
酷い不安にかられて大輝を見ると勝ち気な瞳に見下ろされた。

「お前、なんつう顔してんだよ」
「だって」
「ただ壊したわけじゃねえから」
「え?」

大輝は私の左腕を掴んで引き寄せた。
わけが分からないともっと情けない顔になる。
だけど、
「コレはオレのもんなんだから、オレのモノに括り着けるもんだろ?」
「え」
「どうせボロくなって千切れたんだろうしそろそろ替え時だと思ったんだよな」
「だ、大輝」
「なんだよ、さっきよりブスだぞ?」
「っプレゼントなのに」
「だから…オレのもんどうしようとオレの自由だろ」
「…うん」

私の左手首には失くしたはずのものによく似た真新しい濃紺のブレスレット。
固く結び付けられたこれはきっとまたそのうちボロボロになって千切れていくのだろう。
まるで飼い犬に与える首輪みたいだと思ったりもするけれど、私は彼から与えられるものならきっとなんだって受け入れると思う。

まさか新品の、しかも『プレゼント』を分解してしまうなんて思ってもみなかったけれど、私はまたそんな彼にどんどん惹かれていくのだ。

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