Hold me more! | ナノ

13

「なまえさん、これここに置いていいですか?」
「うん、ありがとう。空いてる所どこでもいいよ」
「なまえ、飲み物は適当でいいか?」
「あ、飲み物は火神さんにお任せで」
「OK」
臨時で早めに閉店した店内、明るく楽しげな雰囲気の中飲み物や料理の準備が進む。
明日に出立を控えた赤司さんと大輝のちょこっと送別会だ。
メンバーは赤司さん、火神さんと火神の彼女ちゃん、黄瀬さんに大輝と私の6人。
赤司さんがこういう集まりに顔を出してくれるのは初めての事で、口には出さないけれど皆嬉しそうだ。
厳しい上司だけれど慕われているという事がよく分かる。

「なまえっち〜!向こうで青峰っちが呼んでるッスよ!」
「え?あ、もうちょっと待っててって、」
「え〜!なまえっちお願い!行ってあげて!俺じゃもう手に負えないんスよ」
「手に負えない?」
「なまえが構ってやらないから不貞腐れてるんだろう。こっちはいいから行ってやってくれ」
黄瀬さんに急かされて、赤司さんには呆れ混じりに言われて急いで事務所に向かう。
そこには赤司さんの予想通りご機嫌斜めの大輝が威圧感たっぷりにソファに凭れていた。
「っふふ」
「…何笑ってんだよ」
「や、可愛くて」
「はあ?お前の目おかしいんじゃねえの?」
「うん、そうみたい」
「…なんかそれも腹立つな」
「もうすぐ準備出来るよ。あっち行こう?」
「送別会なんかいらねーよ…コッチは嬉しくもなんともねえんだから」
「そんな事言わないで、ね?」
「…お前、最近オレの扱い方変わったよな」
「そうかな」
ジト目を向けてくる大輝に微笑むと目を逸らされてしまった。
あ、大分ご立腹なのかなと思ったけれどやっぱりそんな事はなかったみたい。
立ち上がり私の目の前まで来ると腰を屈めて私に視線を合わせてきた。
その目はイタズラっぽく光っている。
「キスしたら行ってやる」
「うん、分かった、」
「っ!」
一瞬唇を付けるだけのキスをお見舞いして『してやったり』の私と驚いて目を見開く大輝。
いつも弄られるばかりの私からの仕返しだとばかりにニッと笑えば、大輝の顔は見た事ないくらい赤く染まった。
バン!
「青峰っち〜!早く乾杯し、よ、あれ」
「あ、黄瀬さん」
「え、何その顔。青峰っち?真っ赤」
「…はあ!?うるっせえぞ黄瀬!このボケ!」
「ええ!?なんで俺が怒られるんスか!」
「うぜえんだよ!」
黄瀬さんを怒鳴り付けながら私の手を引いてホールに向かう大輝の横顔はまだ赤い。
小さく『後で倍返しだからな』と耳元で囁く彼に笑ってその後を追った。





送別会を終えて帰宅した頃には既に日付が変わっていた。
今にも寝てしまいそうだった大輝を寝室まで誘導して、私は一人リビングで温かい紅茶を飲み大きく息を吐いた。
寝室からは気持ち良さそうな寝息が聞こえてきて思わず笑みが溢れる。
文句を言いながらなんだかんだで楽しい時間を過ごせたみたいだ。


『なまえ、色々プライベートな問題があるようだし大変だと思うが…オーナー不在の間店をよろしく頼むよ』
『はい。黄瀬さんもいるし、皆いい人ばかりだし大丈夫です』
『頼もしいな。何かあれば火神に連絡して助けて貰うといい』
『はい、ありがとうございます』
『…なまえ』
『はい…?』
『目障りな男が居て仕事に支障を来す様なら、色々と手立てはあるが?』
『え、手立てって』
『邪魔者を排除する方法だ』
『え!あ、赤司さん、それなんだか怖いです』
『急遽な上に3ヶ月も離れさせる事になった手前、こちらも出来る事はやってやるつもりでいるが』
『赤司さん』
『どうする』
『…大丈夫です』
『…』
『ありがとうございます。でも私、ちゃんと待ってるって約束したので、頑張りたいです』
『そうか』
『はい。今まで人に依存したり頼ってばかりだった人生だったので…こういう時くらいしっかりしたいって思って。まあ、前途多難なんですけど』
『いい心掛けだ』
『!』
『出会った頃に比べて強くなったな』
『っ、ありがとうございます』
送別会の後、別れ際の赤司さんとの会話を思い出していた。
二人で話すのは始めは凄く緊張したけれど、穏やかな声音に優しさを感じていつもより自然体で喋る事が出来た気がする。
そんな私との会話であの赤司さんが綺麗に笑った。
まるで温かく見守ってくれているかの様に優しげに瞳を細めて。
仕事に厳しいのは当然だけれどちゃんとこうやって皆の事を気にしてくれる赤司さん。
この優しい上司の為にも大輝の為にも、自分も頑張らなきゃなと改めて思った。

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