Hold me more! | ナノ

12

「じゃあなまえ、二人でよく話し合っておいて」
「…はい」
パタンと扉が閉まった瞬間息を吐き出した。
赤司さんと話すのはいつも緊張する。
けれど今日はそれに加えて大きな難題も持ち上がった。


「なまえ」
「!」
当たり前だけど赤司さんとは違う、低くて渋みのある声に名前を呼ばれて振り返る。
赤司さんを見送らずにソファにどかりと座ったままの大輝が、大股を広げてここへ座れとゼスチャーした。
そっと腰を下ろすと待ってましたとばかりに後ろから回された腕の中に収まる。
温かさに安心して目の奥がじわりと熱くなった。
「…泣いたのかよ、さっき」
「泣いてない」
「バァカ」
「馬鹿じゃ、ない」
「まあ…オレの言い方が悪かったか」
「っわ、悪くない」
「ウソこけ」
「大輝は、悪くない…私が勝手に…」
そう、私が勝手に過去のトラウマに怯えていただけだ。
あの時みたいに捨てられるわけでもないのに。


赤司さんがわざわざ家に来た理由は私たち『二人』に話があったからだった。
話とは間近に迫った彼の約3ヶ月の海外出張に大輝を連れていくという内容。
もう1つの選択肢として私が赤司さんに着いていくという案もあったけれどそれは大輝が断固拒否して却下となってしまった。
『赤司とお前だけで出張とか論外だろ』なんて言って。
スケジュールの都合上その3ヶ月間は一度も帰国は出来ないとの事だった。
つまり丸々3ヶ月会えないという事。
当然大輝は返事を渋っていたので仕方なく私を説得に来たというわけだ。
でも結局答えは出せなくてまた保留になってしまったわけだけれど。
だって今の状況で突然そんな事を言われて簡単に答えなんか出せるわけなかった。
いつもなら考える余地すら与えてくれない赤司さんが数日の猶予をくれたのは私たちの現状を把握してくれていたかららしい。
さすがと言うべきか。
多くは語らなかったけれど、あの絶対的権力を持っている赤司さんが実は世話焼きで仲間思いだという事は私も分かっているつもりだ。
それでも出張は来週に迫っている為、この数日で返事をしなければならない。
…いや、ちょっと違うかな。
返事をするというよりもこれはただの私の決断待ち。
私が大輝に『大丈夫』『いってらっしゃい』と言えば済む話なのだ。
そうすれば赤司さんは引き摺ってでも大輝を連れていくと思う。
それは赤司さんにとって当然の計画通りであり、大輝にとっても今後の仕事にプラスになる経験でもある。
『文句を言いながらもやる事はきっちりやってくれるからね。向こうで色々な経験を積む事でより成長する事は間違いないよ』
きっとその通りなのだろう。
そんな赤司さんの言葉を思い出して、なんだかんだで大輝の事を信じてるんだなと嬉しくもなった。
だから、私は…



「あの糞野郎が妙な動きしてる時に…はあ…お前置いてくとか…有り得ねえ」
糞野郎とは間違いなく元カレの事だ。
妙な動きとは、私の周りを彷徨いているという事だろう。
「しかも3ヶ月とか、…3ヶ月だぞ?」
またどんな事してくるか分からねえし店も忙しくなるしお前にいい事なんて何もねえ、とブツブツ言いながら頭上で溜め息を漏らした。
「なあ」
「うん?」
大輝の手が私の左手を掴んで持ち上げる。
そして濃紺のブレスレットを弄りながら耳に唇を寄せてきた。
「お前、なんか欲しいもんねえの?」
「欲しいもの…うん、別にない」
「ホント物欲ねえのな」
そう言って更に体を寄せて密着してくる。
まるで甘えてるみたいだ。
「私、物なんて何もいらないよ」
「…」
「こうやって一緒に居られればいいから」
「…お前な。あーあ、もう益々行くの無理だわ」
「でも」
「…」
「大丈夫」
大輝の腕を解いて体を捻り視線を合わせる。
少し戸惑うように揺れた瞳をしっかりと見返して
「ちゃんと待ってられるよ」
笑顔で伝えた。
戸惑いの表情から呆気に取られた表情に変わる。
そして今度はくしゃりと顔を歪めて私の頬をつねった。
「ちゃんとって何だよ、ちゃんとって」
「い、いた」
「我慢出来んのかよ」
「え」
「3ヶ月抱けねえんだぞ」
「そっち!?」
「死活問題だろ」
「…もう」
「ジョーダンだ、バァカ」
「っ」
急に近付いた顔に驚く間もなく唇が合わさる。
そのままソファに雪崩れ込んで、苦しいくらいの長く深い愛を受け止めた。
きっと答えなんてもう、出てた。

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