Hold me more! | ナノ

11

「お願いがあるんだけど」
「なんだよ」
「…あの、まだ…戻って来ちゃダメ?」
「…」
「ご、ごめんなさい。分かってる。ダメだよね、ちゃんと今日は」
「いや、もういい」
「ん?…え?」
「だから、もういいって」
「!いいの!?」
「いいっつってんだよ。つうかもうオレが無理」
「っ」

時間も遅いしもう実家に帰らなければと思っていた所での大輝へのダメ元のお願いは予想外にあっさり受け入れて貰えた。
それもぎゅっと抱き締めて貰えるというオプション付きで。
嬉しさに腕の中で震えていれば『寒ぃのかよ』と言って更に強く抱き締めてくれて、違うんだけど黙って顔を埋めて大人しく抱き締められている事にした。
嬉しい。
良かった。
また一緒に居られる。
なんて幸せに浸っていたけれど、その日寝かせて貰えたのは日付が変わって何時間も経ってからだった。
なんでかは…うん、ちょっと言えない。



ピンポン
遠くでインターホンの音が響く。
聞こえてはいるけど体が動かないし目も開かない。
諦めて帰ってくれないかなと思ったけれどそうはいかないみたいだ。
ピンポン…ピンポン
「ん、痛」
そろそろ近所迷惑かもしれない。
そう思い目が開かないまま少し体を捩れば全身の鈍痛に顔を歪めた。
何も纏っていない体は昨日のまま。
地肌がぴったりとくっついて汗ばんでいて、背後からのし掛かる重みにこれ以上身動きが取れない事を悟る。
ピンポン
「…大輝」
「…」
「誰か来てる」
「…」
「ねえ」
「…」
「起きてるの、分かってるよ?」
「…出なくていい。ほっとけ」
予想通り起きていた大輝は私の首筋に顔を埋めて大きく息を吸い込み吐き出した。
そんな変態染みた行動に反応してしまう私の体は面白いくらいにぶるりと震え、続けて項に唇が触れれば条件反射の様に小さく声が漏れる。
ククッと笑われて、からかわれたのだと分かり勢いよく振り向けば当然至近距離で視線が絡む。
寝起きだと思っていたその目はいつもの気怠い目じゃなく随分前から起きていたみたいに見えた。
「眠れなかったの?」
「いや、ちゃんと寝た」
「そう?」
「さすがにあれだけ体力使えばいくらなんでも寝ねえと死ぬだろ」
「!っそれは、」
「…」
「でもなんか…、どうかした?」
「別にどうもし…なくもねえな」
「?」
妙に歯切れの悪い返事に心配になってじっと見ていると、だいたい目を逸らしたりキスしようと顔を近付けて来たりするのに今日は何故か固まったままピクリとも動かない。
あまりに見てくるものだから恥ずかしくなって思わず私の方が視線を逸らしてしまった。
「なに、今の」
「何って」
「なんで目逸らした」
「…恥ずかしくて」
「はあ?もっと恥ずかしい事してんだろ」
「や、そういう事じゃなくて」
「じゃあなんだよ」
「あ、あんまり見てくるから…どうしたのかなって」
「…」
そっと視線を戻すと大輝は未だに私の事をじっと見ていた。
本当にどうしたというのだろう。
「…お前、…」
「?」
一瞬瞳が鋭くなった様な気がして更に戸惑い首を傾げる。
大輝の大きな手が私の顔に掛かった髪を掻き上げ、ゆっくりとした動作で頬に触れた。
そして、
「なあ」
「?」
「お前、…暫くオレと離れられるか?」
「…え?」
言われた事を聞き入れ理解するのに酷く時間が掛かった。
いや、正直な所聞き入れたけれど理解は出来ていないし意味を測りかねている。
というか理解する事を私の心が全力で拒否していた。
離れる?大輝と?
なんでそんな事言うの?
そんなの無理だ。
だってたった1週間でさえ…

ピンポン
まだ諦めていなかったのか再びインターホンが鳴る。
大輝は深く息を吐き出すと私に短いキスを落とし起き上がった。
そして目を開けたまま何も反応出来ずにいる私を置いて適当に服を着ると、そのまま一人で寝室を出て行ってしまう。
解錠の音が響いてすぐ玄関から話し声が聞こえてくる。
私は起き上がる事もせずに勝手にボロボロと流れてくる涙を拭う事もせずに…不安に押し潰されないように苦しい心臓を掴み、ブレスレットを握り締め耐えている事しか出来なかった。



「休みの所お邪魔するよ、なまえ」
「っすみません、こんな格好で」
「気にする事はない」
来客は赤司さんだった。
当然居留守なんて使えるわけもなく、如何にも寝起きで何もしていない風貌で慌ててお茶の用意だ。
大輝は赤司さんと向かいに座ってそんな私をじっと見ていた。
泣いた事がバレなければいいけど…
だからとにかく早くこの場から消えたくて赤司さんにお茶を出してリビングを去ろうとしたのだけれどそうは行かず、彼のいつもの落ち着いた声に呼び止められてしまった。
「なまえ、座って」
「!わ、私も、ですか?」
「二人に関係のある話だからね」
そう言って大輝と私を交互に見て『さあ、本題だけど』と言い出した赤司さんにピンと背筋が伸びた。

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