TORAMARU | ナノ

25

ふっとお互いの息が漏れ至近距離で視線が絡む。
警察官の制服を着た相手にしがみついている事に背徳を感じながら、それでも離れる気のない自分の気持ちはもうちゃんと理解しているつもりだ。
だって実際会えた事に喜びを感じている。
なんの連絡も寄越さなかったくせにまた突然現れて…と腹が立ったのも事実だけど、本音は『嬉しい』が先行していた。
意地ばかり張っていたくせに私も丸くなったものだ。
ふと大輝の顔が私の髪に埋まり籠った低音が響く。
思わず肩が上がった。
「誰の部屋掃除して、飯作ったって?」
「もう言わない」
「言えよ」
「嫌、早く仕事戻りなよ」
「お前をちゃんと捕獲したらな」
「…捕獲って」
言いながら私の体を囲う腕に力が入る。
ギュッとされた瞬間、心臓まで掴まれた様な感覚に陥った。
なんだか悔しい。
「ねえ、警部補さん。なんで交番のお巡りさん?」
「あ?話逸らすんじゃねえよ」
「何かやらかして外されたの?」
「んなわけねえだろ」
「助けた被害者に報酬求める様な刑事さんだもんね」
「…」
「交番でも困ってる女の人助けてそういう事するつもり?」
「…お前な」
「何」
「オレがなんで交番勤務志願したか、教えてやろうか」
「…志願?」
「刑事課続投蹴って、なんで交番にしたのか」
「え、蹴ったって」
困らせてやるつもりが自分が戸惑う羽目になった。
刑事課続けるはずだったのを蹴った?
しかも交番勤務を志願するとか。
「お前にまた何かあった時、交番のお巡りならすぐ飛んで行けんだろうが」
「…え」
「何アホ面してんだよ。1つの事件に張り付いて拘束されてたら助けてやれねえだろ」
「…」
「お前を助けんのはオレって決まってんだよ」
「っ」
ニッと口許を吊り上げて笑う大輝から目が離せなくなる。
これって、私の為に地元のお巡りさんになってくれたんだって思っていいの?
コイツが、私の為に…
声も出せずただ驚いていると突然鼻を摘ままれる。
またニヤリと笑った大輝が私の名前を呼んだ。

「名前」
「な、何」
「何でもいいからとりあえずお前はオレに捕まっとけ」
「っ何、それ」
「分かんねえの?お前はオレのもんだっつってんの」
「!」
「朝帰ってくるからイイ子に寝て待ってろよ」
「!?」
そう言って大輝は素早く顔を近付け短いキスを落とし家を出て行った。
バタンと閉められた扉を呆然と見つめる。
好きって言葉とかアイツが何考えてるのかとか欲しい答えは1つもくれなかったけれど、それでも十分満足してしまっている私は思っていた以上にアイツに堕ちていたらしい。

だってほら
私はこうやって簡単に囚われて、捕まる。


アイツが仕事を終えて帰って来たら、報酬なんかじゃない素直なキスしてあげよう。
そんな事を考えながら一人笑った。

ねえ
私はアンタが好きだよ、大輝。
だからちゃんと、帰ってきたら聞かせてよね。

END
20150831

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