TORAMARU | ナノ

22

3月も後半に差し掛かり少しずつ肌寒さもなくなってきた。
私はいつもの休日を公園でのランニングで消化する。
今日は孝輔さんと時間が被ったのでコースを一緒に回る事にした。
「すいません、合わせて貰って」
「走ってる事に変わりないんだから平気だ」
「ありがとうございます」
私にスピードを合わせて走って貰うのは申し訳ないなと思いつつ、こうやってまた前と変わらず接してくれる事が身勝手にも嬉しくて頬が上がる。
突然現れたり消えたり、何の連絡も寄越さない、自分の事は何も話してくれないアイツとは大違いだ。
アイツの事を思い出してモヤモヤして来た頭を左右に振ると、孝輔さんが隣から心配そうに覗き込んできた。
「どうした?」
「っ、いえ、何も」
「?」
「…」
「…なんだ、アイツと上手く行ってないのか?」
「!」
いつもこういう事には鈍いのに珍しく鋭い指摘に大袈裟に体が跳ねる。
それに気付きグッと眉間に皺を寄せた孝輔さんが、少し強めに私の腕を引いて立ち止まった。
「孝輔さん?」
「何やってんだよアイツは」
「え」
「はあ……俺が一体どんな思いで、」
「!」
「いや、違うな。悪い」
「孝輔さん」
「アイツもなんか思う所があるんだろ」
「え?」
「馬鹿だけどやる時はやるからな、馬鹿だけど」
「……ふ、ははっ!」
「だろ?」
「さあ〜、どうですかね」
大声で笑い飛ばす孝輔さんを見上げてつられて微笑む。
そしてこんなに素敵で優しい人の気持ちに答えられなかったのだから自分もしっかりしなければと思う。
掴まれていた腕がそっと離されその手が頭に乗る。
優しく撫でるように触れる手に胸が苦しくなった。
「ほら、そんな顔するな」
「どんな顔ですか」
「不細工」
「酷い」
「頑張れよ」
「…え?」
「あの馬鹿の事、好きなら頑張れ」
「…」
「なっ!何泣きそうになってるんだよっ」
「う、だって、孝輔さんが青春臭い事言うからですっ」
「せ、青春臭いって!なんだそれ!?」
「そのまんまの意味です!」
「青臭いって事かコラァアアア!」
「ぎゃあ!あははは!!」
「ったく!」
わしゃわしゃと髪をめちゃくちゃにされながら笑い合う。
兄とじゃれているようだと嬉しくなる私はきっと残酷だ。

走り終えた私たちはベンチに座って水分をとり、青峰大輝の話をしていた。
私が知らなかった事が色々明らかになる。
自分だけ知らなかった事にモヤモヤを覚えつつ、孝輔さんの話に耳を傾けた。
「え?」
「だから、ノンキャリアってヤツだよ」
「でもアイツ警部補?みたいな事、」
「大卒で入って実務1年、試験受かって巡査、更に実務1年…からの警部補。ノンキャリアで最速出世ってヤツだな」
「…」
「尤もキャリアならその段階すっ飛ばしていきなり警部補だけど」
「まあ」
「ま、今のままでいいんじゃねえの?アイツが上層部にいるなんて想像つかないしな。今みたいに第一線でガッついてる方があの馬鹿には合ってる」
「…うん。私も、そう思います」
「今吉さんがこないだ青峰が異動になるとか言ってたけど」
「!」
「またどこかの現場で走り回るんだろうな」
「…場所」
「ん?」
「地方、とか…遠くに異動もあるんだろうなって思って」
「…ああ」
「?」
大きな手がまた頭に乗った。
チラリと隣を見れば顔をくしゃっとさせた笑顔の孝輔さん。
頭をポンポンと叩いてまた笑った。
「遠くだって何だって平気だ」
「何がですか」
「お前は何も心配する必要ないって事」
「根拠もなしに?」
「生意気で先輩を敬えない失礼なヤツだけど、なんだかんだで俺はアイツを信じてるんだろうな」
「孝輔さん」
懐かしむ様に遠い目を空に向けて笑った孝輔さんは、昔の事を思い出しているのだろうか。
その記憶の中にいる青峰大輝はどんなだったんだろう。
私には知る事の出来ない昔のアイツを知っている孝輔さんを羨ましいと思ってしまった。
アイツに会わない間に私の思いは徐々に膨らんでしまっているらしい。
気付かない振りをしていたけど結局露呈した。

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