TORAMARU | ナノ



「待って待って…なんでこの人ここに寝てるの!?」
カーテンの隙間から差し込む太陽の光で目を覚ました私は、隣で遠慮なくイビキをかく人物を見てギョッとした。
私は独身の独り暮らしだ。
この家に住むのは当然私だけ。
ただ今日は例外…私以外にもう1人、住人がいるのだ。
それは家にって事であって、隣にいるって事は想定外だけど!
その理由は昨晩に遡る。


「え、ちょっと…誰!?」
仕事の付き合いの飲みから帰宅した私は、自宅のあるマンションの前にうつ伏せに転がる巨体を発見して慌てて駆け寄った。
けれどその人は怪我をしているわけでも苦しんでいるわけでもなく。
げんなりした。
疲れて帰って来てこれはなんだ。
現在夜中の1時を回った所。
そんな遅い時間に当然人通りなんてあるわけもなく、静かなこの場所にはその巨体の寝息が響いていた。
ぐっすり寝入っているらしい。
このまま放っといていいだろうか。
…否、いいわけない。
季節は1月も終わりの真冬。
この寒さの中こんな所で一晩明かしたら大変な事になる。
散々悩んだ結果勝利したのは僅かな良心で、私は一つ溜息を漏らしてからその巨体を揺さぶった。
「あの…すいません」
予想通り返事はない。
でもなんとかして起こしてタクシーでも呼んで家に帰してやらなければ。
もう一度今度は肩を掴んで強く揺さぶれば、巨体は一瞬『うっ』と呻いた後ゴロンと仰向けになった。
淡い月の光に照らされてその顔が露わになる。
眉を下げ口を半開きにさせたその幼い寝顔は巨体には到底似合わない。
間抜け面にあっさりと毒気を抜かれた私は思わず吹き出してしまった。
「っふは!随分気持ち良さそうに寝てる」
「んー、もう…飲めねえ、ぞ」
どうやら酔い潰れた挙句爆睡に至ってしまったらしい。
辺りを見渡してもこの人の荷物らしき物は見当たらない。
悪いとは思ったけれど服を探らせて貰った。
「えー…身分証とかないの?ていうかポケットに小銭だけって、この人大丈夫なの?」
否、大丈夫じゃないからこんな事になってるのか。
期待したものは見つからず項垂れる。
こうなったらもう仕方ない。
私は叩き起こす覚悟を決めて結構な力でグーパンしてやった。
うん、体硬い!
「起きて下さい!こんなとこで寝てたら死にますよ!」
「ん」
「起きて下さいってば!」
「…っう、るせー…ぐぅ」
「はぁ!?煩い!?」
「黙れ、ブース…ん、」
「ぶっ!あったま来た!もう知らない野垂れ死んで下さい!」
「ん…」
「…」
「…んー」
「〜〜〜っ!もう!」
私は自身の頭をガシガシと掻き乱した。
無防備に眠るこの男をちょっとだけ可愛いとか思ってしまったのだ。
結局私は物凄い労力と時間を掛けて人外とさえ思える程の巨体を引き摺り、自室に戻ったのだった。


客用の布団に放ったはずの男はどういうわけか私のベッドに寝ていた。
つまり私と一緒に。
男との距離はあるものの道理で布団が温かかったわけだ。
ボーナスで買ったダブルサイズのマイベッドは男の重みで深く沈んでいた。
更に飛び出した足がこの人の体が規格外だという事を証明していた。
身長、180は軽いだろう。
「起きて!こら!」
「…ん」
「ん、じゃない!」
「うっるせぇー、…ん?」
モゾモゾと動いていた男の動きが止まる。
そして被っていた布団の隙間からもそりと顔だけ現れた。
っこ、怖!人相悪!!
思わず身を引いてしまった。
あのあどけない寝顔の人とは思えない。
しかも起き抜けの声だからなのかは分からないけど物凄く低く響く声だった。
それが余計に怖さを煽る。
バチっと目が合った。
「…お前、誰?」
「だっ!それはコッチの台詞!!」
「うるせえな。怒鳴るなよ、頭に響く」
「ちょっと!助けて貰っといて何なの!?」
「あ?別に頼んでねえけど」
「はあぁ!?」
最低だ。
やっぱり昨日あのまま放っておくべきだった。
大変な思いして運んでやって温かい布団で寝かせてやったっていうのにこの態度!
有り得ない!
頭に血が上った私は男を包む布団を引っぺがし床に放った。
そこで更に有り得ない事に直面する事になった。
「なんで裸なのッ!?」
「あ?服なんか着て寝られっかよ」
「ば、馬鹿じゃ…な…」
言い掛けて口を噤み、私は目の前の裸に釘付けになってしまった。
だって…
男の体は無駄な肉が一切なくどこからどう見ても見事に引き締まっていた。
ただの巨体じゃなく中身も規格外だ。
こんな立派な体見た事無い。
とはいえ男の裸を見る機会なんて滅多に無いのだけれど。
「いつまで見てんだ?変態」
「へッ、変態!?」
「見過ぎだろ。なんだよ、触りてーの?」
「馬っ鹿じゃないの!」
「だからギャンギャン吠えんなよ」
「誰のせい!?」
「つうかココ、お前んち?」
「考えれば分かるでしょ!」
「腹減った。なんかくれよ」
「はぁ!?起きたんだからもう帰れ!」
「ケチケチすんなよ。あ、その前に風呂貸してくれ」
「ちょ、だから帰ってって!」
「便所も借りるわ」
「〜ッ!!!」
人の話を聞きもしない我が道をいく男はベッドを下り、パンツに手を突っ込んでお尻をボリボリと掻いた。
最悪、下品、野暮ったい。
開いた口が塞がらないとは正にこの事だ。
私は男が勝手に部屋の中を動き回るその様子をただ呆然と見ていた。
なんて自分勝手な男だ。
もう何も言う気になれない。
朝から疲れ切った私は、もう一度その身をベッドに沈めた。

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