TORAMARU | ナノ

11

ヴヴヴ、ヴヴヴ、
「!?」
携帯のバイブ音にハッとした私は、自分がテーブルに突っ伏して寝ていた事に愕然とした。
お弁当を食べ終えて何もする事がなくてボーっとしていたらいつの間にか寝てしまったのだ。
目の前のベッドには未だ寝息を立てている巨体。
私は携帯のディスプレイを確認してから大輝に背を向けて通話ボタンに触れた。
『あっ!名前!大丈夫か!』
「お、お疲れ様です」
『身内の急病って、大丈夫なのかよ』
「!あー、はは…はい、思ったより大した事なくて」
『そうか!なら良かった』
電話の相手は孝輔さんだった。
壁の時計を見ればなんと23時を回っている…残業でお疲れの所を心配して連絡をくれたんだろう。
まっすぐな孝輔さんに嘘をついている事がとても心苦しいけど、本当の事を言うのもなんだか憚られた。
後で今吉さんに話合わせて貰う様に言わなきゃとまで考える。
それは孝輔さんが大輝の事となると目を血走らせる勢いで不機嫌になるからだ。
「すみません。ご心配お掛けしました」
『いや、大丈夫ならいい。俺も応対中だったから話も聞いてやれなかったしな…まあ、良かった』
「ありがとうございます、孝輔さん」
『お、おう!明日は出社出来そうか?』
「はい、大丈夫です」
『そうか。無理しなくていいけどよ…お前居ないとやっぱちょっと寂しいっつうか、なんつうか…あー』
「…っふ、はは!」
『!んなっ、何笑ってんだよ』
「っふふ、いや、孝輔さんちょっと可愛いなって」
『っはぁ!?お、お前っ、先輩に向かって!』
「だって、あはは!ッ!?」
『…ん?どうかしたか?』
「!」
弾む会話に気を取られてここが何処かをすっかり忘れていた私。
つい声も大きくなってしまっていた。
突然背中にピタリと貼り付いた巨体に大袈裟に反応する。
熱い。
更には私の両サイドを囲う様に足が見え、がっしりした腕がお腹に巻き付いてきた。
左肩に感じる重みは…顔。
耳元で空気が揺れた。
「っ」
『名前?』
「あ、」
『どうした?』
「い、いえ!何も、ッ!?」
大輝の両足の感覚が狭まり閉じ込められる形になってビクリと体を震わせれば、私を拘束する腕の力が強まる。
変な声が出そうになった自分の口を押さえた。
『おい、やっぱどうかしたのか?』
「大丈夫!大丈夫です!孝輔さん、電話ありがとうございましたっ!じゃあまた明日っ」
『お、おう』
半ば無理矢理通話を終えて携帯を手放し、お腹に巻き付いた腕を掴んで勢いよく振り返る。
『何すんの!』叫ぼうとした言葉は、至近距離にあった大輝の顔に動揺して声にはならなかった。
「なっ、に、」
「孝輔?」
「え…こ、孝輔さん…若松さん!」
「へえ…アイツも1階級昇格か?」
「何言ってるの、離れて」
「言えばよかったじゃねえか、俺の家にいるって」
「い、言う必要ないし!離れてってば!」
「俺が電話代わってやったのによ」
「意味分かんない、離れて」
「無理」
「はぁ!?も、もう!帰るから!」
「それも無理だな」
「…は」
「お前今日ここに泊まるから」
「……はは、ないない」
「言う事は聞いとくもんだぜ?こないだみたいな目に遭いてえのかよ」
「こないだって」
「狙われただろ」
「あ、あれは偶々で」
「こんな時間だぞ」
「なら送ってよ!」
「無理」
「はい!?」
腕の中に閉じ込められたまま続く押し問答。
コイツに言われた事で先日の痴漢未遂の男の顔を思い出して身震いすれば、溜息と共にやっと解放された。
「くぁあ…寝足りねえな」
「…寝過ぎでしょ」
「あ?寝る子はよく育つって言うだろ」
「育ち過ぎ」
「いちいち突っ掛ってくんなよ。ほら、風呂でも入れ」
「は!?お風呂!?」
「風呂も入らないで寝る気かよ、汚ねえ女」
「なっ!」
「寝る時の服くらい貸してやるよ」
「…」
「おら、受け取れ」
「っぶ!」
大輝が投げたロンTとボロジャージが顔を直撃。
香ったコイツの匂いにドキっとしたなんて一生の不覚だ。
勢いよく立ち上がってバスルームに向かいながら『覗かないでよね変態!』と叫べば、『なんだそれ覗いて欲しいって事か?』なんて最低発言が飛んで来た。
もう駄目だ、付き合い切れない。
ガックリ項垂れてバスルームに入った。


「こういう場合、お客であり女である私がベッドを使う権利があるってもんだよね」
大輝がお風呂に行っている間、私は一人納得してベッドに身を沈めた。
ソファがあればそこでも良かったけどこの家にはない。
だからこれは仕方ない事だ、そう言い聞かせる。
草臥れたロンTとブカブカの域を超えたサイズのジャージに身を包んだ自分に一つ深い溜息。
「…なぁにやってるんだか」
意地でも帰れば良かったのに、なんて考えたら自分がここに居る事に何かしらの『理由』が出来てしまう事を恐れて頭を振った。
明日も仕事が待っている。
アラームをセットして、いつもより数段疲れている体を休めるべく目を閉じる。
さっきもしっかり睡眠をとったはずなのにきっとアイツのせいで疲れが取れないのだろう。
目を閉じた途端睡魔が襲う。
私は一気に意識を放った。

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