100万打記念シリーズ | ナノ

25歳の私たち

「大輝!いい加減起きないと遅刻するよ!?」
「んあ?…あと3分いける」
「いける、じゃないから!私もう家出るからね!?」
「……、は?」
「仕事遅れちゃう!」
「おい待て!お前オレを見捨てる気かよ!」
「だっていくら起こしても起きないから!」
「はぁ!?嫁らしくチューぐらいして起こしてみろっての!」
「!」
「やべえ、マジで遅刻じゃねえか」
「し、したし…」
「あ?」
「ッしたけど起きなかった馬鹿旦那は誰だバカァ!!」
「な、ッいってぇ!!」
やっと体を起こしてベッドに腰掛けた大輝の頭をバシッと一発。
怨めしそうにジト目を向けてくる。
けどそんな事に怯む事無く眉間に皺を寄せて睨み付けてやった。
すると大輝の腕が伸びて来て私の腕を掴んだ。
そのまま引き寄せられれば私の体はすっぽりと大輝の腕の中に納まる。
「なあ、なまえ」
「何」
「分かんなかったからもっかい」
「嫌」
「もっかい」
「いーや」
「1回も2回も変わんねえだろ」
「いーやーだ!」
「じゃあいーわ…勝手にやる」
「!」
寝起きの熱い手が私の頬に触れあっという間に顔が近付き、カサついた唇がゆっくりと重ねられた。
腹立たしいけど避ける気にはならない。
こうやって言い合いから始まるいつもの朝は嫌いじゃない。
何度したってドキドキするキス。
結婚したってそれは変わらない。
大輝も私と同じ様にドキドキしてくれていたらいい。
そう思いながら恥ずかしい朝の挨拶を受け止めた。


大輝は約束通り2年契約で日本に帰ってきた。
2年前、日本を発ってすぐキャンプに参加した大輝はしっかりベンチ入りしてレギュラーシーズンを迎えた。
シーズン中に思わぬ怪我をしたけれど、今後に支障ない軽い怪我で済んで心底ホッとしたのはもう大分昔の事の様に感じる。
チームに貢献はしたものの大活躍とまではいかなかったこの2年の結果を、当たり前だけれど大輝は悔しそうに受け止めていた。
2年の海外生活を終了した大輝。
誕生日の前日、こっそり日本に帰って来て私より先にバスケ仲間に会いに行ったと知った時はすっごく腹が立ったけど、『ただいま』って言ってくれただけでも十分と思う事にした。
だって気心知れた仲間とバスケをして帰ってきた時の大輝の顔、私凄く好きだ。
悪態を吐きながらも私は大輝の帰りを目一杯喜んだ。
それから…大輝の誕生日の日。
私は『青峰なまえ』になった。


『オレ、ばーちゃんとやくそくしてることがある』
『やくそく?』
『おー』
『なあに?』
『なまえをおよめさんにもらうこと』
『えっ!』
『なんだよ。いやなのか?』
『い、いやじゃない!なまえ、だいちゃんのおよめさんになる!』
『よっしゃ!やくそくだからな』
『うん!』

身内と仲のいい友達だけに囲まれて小さな結婚式を挙げたその日の夜。
やっと2人きりになった私たちは疲れ果ててベッドでゴロゴロしていた。
大輝は時差ボケに加え結構な量のお酒を口にしていたからきっと眠気もピークなんだろう。
ウトウトしててちょっと可愛い。
全く、初夜もなにもあったものじゃない…けどこれが私たちらしくていいとも思う。
そんな中ポツリと大輝が呟いた。
「そういやぁよ」
「ん?」
「約束、果たしたな」
「え?」
「…お前を嫁に貰うってやつ」
「大輝……覚えてたの?」
「まあな」
「そっか」
「なんだよ、そのどうでもいいみたいな言い方は」
「え、そんな事言ってないでしょ?ちょっと昔の事思い出してただけ」
「お前、昔からオレの事すげえ好きだったからな」
「…自信過剰」
「間違ってねえだろ」
「うん、間違ってない」
「ま、オレも同じ様なもんか」
「え、」
ギシリとベッドが軋んで天井しか見えなかったはずの視界が大輝で埋まった。
眠気でとろんとした目のせいかいつもより幼く見えてちょっと可愛い。
思わず笑い声を漏らせば眉間に皺が寄り、ムッとした顔が近付いた。
「っ…」
触れた唇は熱くて、重ねられた手は少しだけ汗ばんでいる。
名残惜しそうに離れて行った唇は今度は首筋に触れた。
熱い息が掛かって体を震わせれば、繋がった手がぎゅっと強く握られた。
「大輝は?」
「ん?」
「昔から私の事、好きだった?」
「…」
「何その無言」
「…言う必要、ねーだろ」
「えー、ッん」
再び煩いとばかりに口を塞がれる。
熱を持った圧し掛かる巨体が密着してずっしりと重たい。
私に纏わり着くその姿はまるで子供みたいだ。
「なまえ」
「ん?」
「…」
「?」
「…」
「大輝?」
「オレも…負けてねー…よ、お前に…」
「えっ」
「…すぅ、」
「…え」
寝息が聞こえるのと体の重みが増すのは一緒だった。
相当眠かったのか、しれっと嬉しい言葉を落として夢の中に行ってしまった。
負けてないって…
大輝も私の事、ずっと好きでいてくれたって事だよね。
「…知ってたけどね。ばーか」
ニヤついた顔で1人悪態を吐く自分は滑稽だ。
腕の中に納まりきらない巨体を目一杯抱き締めて顔を摺り寄せた。
これからは、
これからもずっと一緒。

END

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