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18歳の卒業

今日は卒業式。
なんだかんだとずっと大輝と同じ道を歩んで来た私。
でも今までずっとずっとバスケバカを見守って来た私の仕事も今日で終わり。
今日この桐皇学園を卒業すれば私が大輝と会えるのは年に1度か2度か。
下手をすれば1年に1度も会えないかもしれない。
高校卒業と同時にプロ契約してバスケに専念する大輝はチームの寮に入ってしまう。
毎日の様に顔を合わせていたのに急にそれが無くなったら、大輝は寂しいと思ってくれるだろうか。
…私は、


式を終えた卒業生たちは各教室で最後のHRを終え、それぞれ思い思いの行動を取っていた。
友達と談笑する人、先生と別れを惜しむ人、写真を撮る人、号泣している人、想い人に告白している人…そのどれもに当てはまらない私は1人廊下を歩いていた。
友達とのお別れは済んだ。
同じ大学だったり地元から出ない子の方が多いから号泣する程の別れというのは無かった。
現に仲のいい友達とは明日買い物に行く約束をしている。
今私が会いたいのはアイツ1人だ。
なのにいくら探しても見つからない。
あんな目立つ形をしているのにおかしい。
渡り廊下を歩いていると後ろからバタバタと大きな足音が響いた。
私が角を曲がった瞬間その足音が止まる。
もしかして…
そう思って立ち止まり振り返ったけれど、そこに居たのは思った人じゃなかった。
「苗字さん!」
「ん?」
「あー…今、平気?」
「うん、何?」
爽やかイケメンの登場だ。
紺野くん…クラスは忘れたけどサッカーの有名チームと契約したとかで話題になってた気がする。
確か2年の時委員会が同じで、すれ違えば挨拶はするけどこんな風に話す様な知り合いだった記憶はない。
首を傾げて話を待つ。
紺野くんは後ろ頭を掻きながら私を見た。
「あのさ」
「うん」
「…俺、苗字さんに会えなくなるの、嫌で」
「え?」
「あ、否…なんていうかその…これからも会いたい時に会えたら嬉しいなって思ってて」
「え」
「それで…連絡先教えて欲しいんだけど、駄目かな」
「わ、私?」
「うん」
目の前で照れながら言う彼に私は戸惑うしかない。
会いたい時に会えたらって…
返答に困っていると彼の瞳が揺れた。
「今しかないって思ったんだよ。苗字さん、もう青峰と離れるだろ?」
「!」
「苗字さんの近くにはいつもアイツが居て…でもアイツは寮に入るって聞いたしさ」
「な、なんで、大輝?」
「邪魔だったんだ、いつもいつも。苗字さんに近付けなかった。でも今なら、」
「今ならなんだっつうんだよ」
「「!」」
紺野くんの後ろ、さっきの角から姿を現したのは大輝だった。
その目は手前の紺野くんを通り越して私を見据えている。
「何しに来たんだよ、青峰」
「は?」
「邪魔するなよ。今苗字さんと俺は話し中だ」
「関係ねえな」
「なんだよ、邪魔するなって、ッ!?」
「ッ大輝!?」
紺野くんの制止を無視して、大輝はその長い腕を私に伸ばした。
ぐっと手首を掴むとそのまま引っ張るものだから当然私は大輝に向かって突っ込む。
飛び込んだ私を軽々と受け止め、その私の頭上で大輝は低い声を漏らした。
「邪魔はてめえだ」
「な、に?」
「誰に許可とってコイツと2人になってんだ」
「許可!?許可なんかいるか!お前こそ」
「いるんだよ、オレのな」
「な!」
「え」
そう言って大輝は私の手を掴み直して紺野くんに背を向ける。
私は大輝に物凄い勢いでグイグイと引っ張られ、悪く言えば引き摺られる様にしてその場を後にした。


「大輝!大輝!」
「うっせえ!」
「止まってよ!もう転びそッ、ぅぶッ!」
突然立ち止まった大輝の背中に顔面を強打する。
振り向き私を見下ろす大輝の顔は笑えないくらい恐ろしかった。
「ちょ、…なん、ですか」
「…」
「…大輝?」
「あんなクソみてえなヤツに捕まってんじゃねえよ」
「え?」
「…探したっつうの」
「え」
「フラフラすんじゃねえ」
「は!?フラフラって何!?」
「フラフラしてんじゃねえか!色んな意味でな!」
「な!私はずっと大輝の事探してたんだからッそっちこそ、ッ」
「あ?探してた?」
「…否、別に…そういうわけじゃ、」
「おい名前」
「!」
掴まれたままの手にぐっと力が込められる。
高い位置から私を見下ろすその目の色は小さい頃からずっと変わらないはずなのに、見たことない熱い色を宿していた。
「手、放して」
「無理」
「なんで」
「無理」
「じゃあちょっと離れて」
「無理」
「な、なんで」
「無理だから」
「意味分かんない」
どんどん距離を詰めてくる大輝と後ずさる私。
私の心中は気が気じゃなかった。
とっくに知ってた。
コイツがかっこいい事なんて。
ずっとずっと、自分の特別だったって。
それを今このタイミングで激しく意識してしまった私は、不覚にも大輝を見てドキドキと胸を高鳴らせた。
「意味分かんねえとかバカだろお前」
「は!?」
「ずっとオレの事探してて、見つけてどうする気だったんだ?」
「ッ別に!」
「…へぇ、あっそ」
「何その顔!」
ジト目にひん曲がった口のオプション付きで私を見てくる大輝に思わず視線を逸らす。
だって仕方ない。
急に意識し始めてしまったらまともに顔なんて見れるわけない。
馬鹿みたいに緊張していれば、不意に頭上が陰り私は大きな体に包み込まれた。
「オレはこうする気だったけどな」
「だッ、!?」
「…おう、やっと大人しくなったな」
突然の事に抱き締められたまま呆然とする私を、大輝は更に力を込めて抱き込んだ。
こんなの、想定外。
「名前」
「ッ何」
「ブスのくせによ」
「は!?」
「他の男に媚び売ってんじゃねえよ」
「媚び!?何言ってんの!?」
「お前にはオレが居りゃ十分過ぎんだろうが」
「私は媚び売ってなんか!…え…、え?」
「…」
「何、今の」
「…」
思いっ切り顔を上げると、一瞬目が合った大輝は勢いよく顔を背けた。
耳も、首も…真っ赤。
「…なんか文句あるかよ」
「ッ変態のくせに!おっぱい星人のくせに!」
「うっせえぞブス!」
「また言った!」
「有り難いと思えっての!」
「上から目線!」
「だぁ!うっせえんだよ!黙ってオレのんなれ!ブゥース!!」
「なッ、なっ、なってあげるよ仕方なくね!!」
「可愛くねえッ!!」
「馬鹿ッ!真っ黒!変態!」
「マジ可愛くねえ、!」
私を抱き締める腕を少しだけ緩めた大輝に、ぎゅうぎゅうしがみ付いた。
『うっ』とか呻き声が聞こえたけど緩めてなんかやらない。


「好きだ、馬鹿」

今日は卒業式。
ただの幼馴染からの卒業。

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