ネコさまはカレである | ナノ



土曜日の朝だけど今日はいつも通り制服に着替えて学校に向かう。
いつもならまだベッドから出られずに寝惚けている時間だ。
途中で親友の名前と合流してから予定通り学校に到着すると、体育館の前で桃井さんが大きく手を振ってくれた。
相変わらず笑顔が眩しい。
「おはよう!二人とも今日はよろしくね!」
「こちらこそ!」
「頑張りまーす!今吉先輩にタオル渡す係なら任せて!」
「はいはい、そんなのないからね」
相も変わらずブレない親友を受け流して更衣室へ。
荷物を置いてTシャツに着替えてから、早速本日のお仕事内容を桃井さんから教えて貰った。
今日の桃井さん、いつもの可愛らしい感じじゃなくて、テキパキしてて出来る女って感じでかっこいい。
「ドリンクの補充と、皆がコートに戻った後のベンチ周りの整理と、タイムアウト中のコートのモップ掛けと…ごめんね、本当に雑用ばっかりで」
「いいのいいの。そのつもりで来てるし」
「ありがとう!」
説明をして貰ってる間に桜井くんや先輩方が来て、とりあえずと挨拶をしたら皆さんに笑顔で受け入れて貰えた。
今吉先輩に尻尾を振って飛び付いていった親友の名前はもう放置だ。
諏佐先輩はすごく温厚で優しそう。
若松先輩は青峰くんが居ない事に腹を立ててピリピリしてたけど、挨拶をしたらけっこう普通の人だった。
怖そうだなと思ってたけど余程のヘマしなければ怒られる事はなさそう。
監督の原澤先生には昨日挨拶済みだ。
化学の授業の時のイメージでなんとなく怖そうで近寄りがたかったけど思ってたよりずっと優しくて、「明日はよろしくお願いしますね」と微笑まれた時には親友の名前と二人で思わず顔を見合わせてしまった。
紳士の笑顔危うい。
それはさておき、先輩方も来て桃井さんが忙しくなってしまったので、桜井くんにドリンクの作り方や必要な備品の場所や今日の私たちの仕事に必要な事を細かく教えて貰った。
この人はホントに偉いな。
遅刻するし絶対こういう仕事しないだろう青峰くんに文句一つ言わないでお弁当まで作ってきて…そういえば青峰くんまだ来ない。
若松先輩以外の皆さんが落ち着いているという事はまだ許容範囲って事?
「青峰くんっ!練習試合だよ!?早く来て!」
…大丈夫ってわけでもなさそうだ。
桃井さんがプリプリ怒りながら青峰くんに電話していた。
電話1本で来る感じでもないよなぁと思いながらドリンク作りスタートだ。

「苗字さん、手伝います」
「えっ!桜井くん今日も試合出るんでしょ?」
「はい!でもまだ時間もあるし」
「もー、ほんと働き者なんだから」
「スイマセン」
「はい、意味不明ー」
「!スイマセン」
「あはは!」
桜井くんに癒されながら、試合前に準備すべき事はあっという間に全部やり終える事が出来た。


ドリンクやタオルを持って体育館に着くと思わず入るのを躊躇ってしまった。
親友の名前がすごい速さと正確さでモップ掛けをしていた。
辺りを見渡せばピッカピカ。
モップ掛けをやらせて正解だったかもしれない。
当然彼女の視線の先には今吉先輩がいて、今の親友の名前はまるで飼い主に誉めてもらいたい犬みたいだ。
今吉先輩は親友の名前に見向きもせず原澤先生とお話し中だ。
面白いから動画に納めておこう。
「み゛ゃー」
「ん?」
スマホを取り出そうとしたら足元から聞こえた鳴き声に動きが止まる。
もう何も驚くまい。
でも、きっとまた会えるとは思ってたけど学校でもこんなに会えるなんて。
もしかしてバスケ部の誰かがこっそり飼ってるんじゃと思ってしまう。
遅れてやってきた桜井くんがびっくりしてドリンクの入った籠を落としそうになっていた。
二人して入り口で立ち往生だ。
「ね、ネコさん!」
「み゛ゃー」
「苗字さん!このネコさんって」
「あ、分かった?この間の子」
「な、なんでうちの学校に!?」
「それ私も知りたい」
分かるよ桜井くん。
すごく気になるところだけど、それはまあいいや。
だってやっぱりすごく可愛い。
ほんと何この目付きの悪さ。
「っふふ。おいでー」
「み゛ゃっ」
「ほら」
「…み゛ゃー」
「よしよし」
私を睨み付けるように見上げながらも近付いてくる猫ちゃん。
私の指先に鼻を着けてツンツンしてきてチラリとこっちを伺ってきたものだから、もう堪らなくなって頭を撫で回してやった。
だから!可愛すぎでしょ。
もしかしてちょっと慣れてくれたのかな。
喉元を触るとゴロゴロ喉を鳴らしている。
調子に乗って抱き上げようとしたけどさすがにそれは無理だったみたい。
素早い猫パンチが飛んできてあっという間にどこかに行ってしまった。
「あーあ、残念」
「だっ、大丈夫ですか!?」
「平気平気、ちょっと爪が引っ掛かっただけだから」
「えっ!野良猫は沢山バイ菌持ってるって聞くし、ちゃんと消毒した方がっ!」
「大丈夫だってー。あ、手はちゃんと石鹸で洗うよ?」
「ダメですよ!うっすら血が出てるじゃないですか!」
「これくらいの血平気だよ」
「平気じゃないです!」
「わっ、さ、桜井くん!?」
「こっち来て下さい!」
当事者より焦った様子で、桜井くんが私の腕を引いて近くの水道で傷口を洗い流してくれた。
更にぐいぐいと引っ張って体育館の隅に座らせる。
心配性だなあと思いながら見ていると、彼は救急箱を持って走ってきた。
それから消毒液とコットンを取り出して私の手を取ると、慣れた様子で手早く処置を進めてくれる。
「おー、手際が良い」
「か、感心してる場合じゃないですよ」
「すいません」
「あ、スイマセン!偉そうにして」
「そんな事ないよ?ありがとう」
「沁みませんか?」
「うん、大丈夫」
桜井くん優しすぎか!
あ、近くで見ると結構可愛い顔してるなあ。
相変わらず女子力高いなあ。
あんまり観察しすぎたせいか、一瞬目を合わせた桜井くんの顔が赤くなってしまった。
わー、私なんかよりずっと女子っぽい!
あとは絆創膏を貼るだけ、というところですぐ脇の重い扉がガラガラと鈍い音を立てて開いた。
「あ!青峰さん!」
「あ?良…、とお前、何やってんだ?」
現れたのは遅刻常習犯の青峰くんだった。
眠そうな顔をして後ろ頭をボリボリ掻きながら体育館に足を踏み入れる。
「苗字さんが、ネコさんに引っ掻かれてしまって」
「猫?」
「そう、最近よく見掛ける猫ちゃんが居てね」
「ふーん」
「あ、そうだ青峰くん、きっと桃井さんが探してるよ?連絡してあげたら?」
「あ?別に平気だろ、どうせココ戻ってくんだし」
桃井さん、苦労が絶えないね。
青峰くんは面倒くさそうな顔で床に腰を下ろすと、すぐにゴロンと横になってしまった。
ほんと自由だな。
遠くから『おー青峰ー、来たんか』なんて間延びした今吉先輩の声が聞こえてきた。
どうやらこれも通常稼働のようだ。

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