ネコさまはカレである | ナノ



「やばいやばいやばいやばい」
1限目、皆は体育の時間。
外でテニスをやっているはずのこの時間、2限に英語のミニテストがある事をすっかり忘れていた私は一人必死に英文を暗記しようと屋上で真剣に…いや、うん、つまりサボリだ。
先生には親友の名前がうまく言ってくれたはずだから大丈夫、なはず。
屋上の角、出入り口からもフェンスの外側からも死角のこの場所は誰にも気付かれる事はないだろう。
昨日いつものように布団に入ってしまった自分を恨むも仕方ない。
私に残された時間はあと40分、ひたすら頭に叩き込むのみだ。


キィ…ガチャン
残り20分程という頃、屋上の扉の開閉音が響く。
授業中に先生は来るわけないしきっとサボリの生徒だろう。
時間も中途半端だし授業を抜け出してくる生徒もなかなかいないだろうし、全くこんな時間に登校してきて…ってサボっている自分が言えることじゃないかと苦笑いしつつ再び英文に目を向ける。
少々邪魔は入ったものの集中力を欠くことなく暗記は進み、これなら満点とはいかなくてもなかなかいい点数になってくれそうだ。
「はー…そろそろいいかな」
今からテニスコートに行けば、まるで今まで普通に体育してました風に授業を終えて万事終了だ。
先生、悪い生徒ですいません。
立ち上がり伸びをして深呼吸。
扉に向かって歩き出した時、視界を黒いものが掠めた。
「…ん?」
「み゛ゃあー」
「えっ!!」
声がしたのは四角い貯水タンクの上の方。
驚いて振り返ると、そこにはこの間の猫がぐーっと伸びをしていた。
近所のコンビニに、練習試合で行った他校、まさか学校の屋上でまで会えるなんて。
「すごいな、よく会うね」
「…み゛ゃー」
飼えないって言ってるのにこの運命的な出会いの数々はなんなんだ。
酷い、けど…
「可愛いなぁ、ほんと」
愛嬌がないところがまた可愛い。
猫ってつれないし食べ物ねだる時しか来ないけど、そこがまた可愛いと思う。
高い場所にいるから今日は目の高さが一緒だ。
そっと少しずつ近寄ってみる。
相変わらず鋭い目を向けてくるだけで逃げることはなかった。
ワシャワシャといつもの撫で方で頭を撫でれば、今日はなんだか気持ちよさげに目を細めて頭をぐいぐいと押し付けてきた。
うっ、か、可愛い。
「でもダメなんだってばー」
頭を振って、名残惜しいけどお別れだ。
授業の終了前に戻らなければ。
こんなに何度も会えるんだからきっとまたどこかで会えるはず。
そう期待して私は屋上を後にした。



「苗字さん、大丈夫ですか?」
「えっ」
「親友の苗字さんから具合悪いって聞いて…さっきの体育、出来なかったって」
「あ、あ、そう!うん!でももう平気!心配してくれてありがとう」
「い、いえ。そんなっ」
あの練習試合の日から桜井くんとはけっこう仲良くなった。
同じクラスだったのに今まで全然喋らなかったのが嘘みたい。
そんな彼に心配してもらって酷く申し訳ない気持ちになる。
気遣ってくれた優しい彼に実はサボリだったなんて言えるわけない。
でもまあ、そのサボリのおかげで英語のミニテストはかなり良い感じに出来たんだけど。
とりあえず親友の名前に感謝だ。
その親友の名前はと言えば、今は窓から身を乗り出さんばかりの体勢で校庭を見ているところだ。
理由は言わずもがな。
「親友の苗字さんって本当に今吉さんに夢中なんですね」
「あはは、分かりやすくていいでしょ?」
「はあ…まあ」
「正直なところ今吉先輩って親友の名前の事どう思ってるんだろ」
「どうでしょうか…楽しんでるように見えるし、嫌ってはないと思います」
「そっか。なら良かった。桜井くんが言うなら間違いないね」
「いや、ぼ、ボクなんか」
「おい、良」
「あっ!青峰さん!おはようございます」
「おー」
桜井くんと私の背後で低くて気怠い声が響いた。
顔だけ振り返れば、相変わらずやる気のない顔をした青峰くんが欠伸をしていた。
「腹減った。弁当くれよ」
「えっ、これから3限ですよ」
「あ?早弁だ、早弁」
「お昼はどうするんですか?」
「購買で買う」
「すぐ出します!」
…こ、これは。
桜井くん、キミはそれでいいのか。
まさか毎日お弁当作ってあげてるのか。
「そこ、オレの席」
「え!あ、ごめん。あ、おはよう」
「おう」
気付かなかったけど青峰くんの席の近くで話していたらしい。
自然と挨拶なんかしてしまったけど返事はしてきた。
話せば意外と普通なのかな。
そんな事を考えているうちに桜井シェフがお弁当の包みを持ってきて机に置いた。
青峰くんがサンキュと小さくお礼を言った事に驚きつつ、蓋が開けられたお弁当を見て私は桜井くんの女子力を舐めていたと愕然とした。
「キャラ弁、キャラ弁だよこれ」
「はい!今日はちょっと凝ってみました!」
「いや、ちょっとどころの話じゃ。っていうか青峰くん食べるのに迷い無さすぎ」
「あ?腹ん中入ったら一緒だろ」
「うわー桜井くんそれでいいの?」
「はい!美味しく食べて貰えるのが一番ですから!」
「いい人すぎっ」
桜井くんの力作を迷わず箸でぶっ刺してポイポイ口に放り込んでいく青峰くん。
それを笑顔で見ている桜井くんは天使か何かだろうか。
私にもお弁当作ってほしいな、なんて図々しい言葉はなんとか飲み込んだ。





「苗字さーん!」
ある日の昼休み、響いた可愛らしい声に一瞬教室内が鎮まる。
ドアから顔を覗かせて私を大声で呼んだのは桃井さんだった。
途端にクラスが騒つき始めた。
突然このクラスに関わりのないはずのあんな美少女が現れたらそれは男子も騒ぐか。
妙に納得しながら彼女の元に向かう。
気付いた親友の名前も着いてきた。
「突然ごめんねっ」
「平気だよ。どうかした?」
「あのね、実はお願いがあって」
「うん?何?」
「今度の日曜にまた練習試合があるんだけど」
「あ、知ってる!今吉先輩言ってた!うちの学校でやるんでしょ?」
「親友の名前情報早!」
「そうなの!それでね、出来たらでいいんだけど…私のお手伝いして貰えたら嬉しいなって」
「え!行く!!」
「返事早!!っていうか親友の名前下心丸出し!」
「親友の苗字さんありがとう!苗字さんはどうかな」
「桃井さんのお手伝いって事は、マネージャーのお仕事の助手って感じ?」
「うん!今回の相手校人数多いみたいで、雑用みたいになっちゃうと思うんだけど…」
「いいよ、全然。私で良ければ」
「良かった!ありがとう!じゃあ二人ともよろしくね!また後で連絡するから!」
目をキラキラと輝かせて微笑んでから桃井さんは帰って行った。
クラスがなんとなくザワザワしているのはまあ仕方ないかな。
可愛いとか美人とかいう単語があちこちから聞こえてくる。
実際そうなんだから私も同意するよ男子諸君。
そんな中、間近で思わぬ声が上がった。
「お前、さつきと知り合いだったか?」
「ん?」
購買から戻ってきたらしい青峰くんだった。
廊下からさっきの様子が見えていたのかもしれない。
そういえば桃井さんが青峰くんとは幼なじみだって言ってたっけ。
「この間の練習試合の時にね、ちょっと仲良くなって」
「へえ」
「あ、今度の練習試合、お手伝いする事になったからよろしく」
「あっそ」
「うん、頑張ってー」
特に返事もせず青峰くんは自分の席に行ってしまった。
ああ、もしかしてまたやる気なくて遅刻してくる気なのかもしれない。
桃井さんもいつも大変だ。
ひょっとしたらお手伝いって…青峰くん探しのお手伝いも含まれるのかもしれないな、なんて思ってしまった。
あと私の仕事はもう一つ。
親友の名前が今吉先輩にばっかり気を取られないようにしっかり働かせる事だ、寧ろこれが一番重要かもしれない。

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