ネコさまはカレである | ナノ



先日の雨の休日とは打って変わって今日は気持ちいいくらいの晴れ。
ぐんと空に向かって両手を突き上げ背を伸ばして私は寮を飛び出した。



「名前!こっちこっち!」
「親友の名前、おはよ」
「おはよ!今日はよろしゅう!」
「えー、うわー、うわー」
「え、そんな引くとこ!?」
今吉先輩の真似をした気でいるのか妙なイントネーションで挨拶をしてきた友人を冷たくあしらって、本日の目的地であるバスケ部の練習試合の相手校へ向かう。
今日の相手は強豪高らしく、勝つか負けるか全く予想できないと親友の名前から聞いていた。
そんな試合だからなのか練習試合だというのに辿り着いた体育館は人でごった返していて、息苦しい程の異様な熱気に包まれていた。
「これ、練習試合だよね?」
「うん…私もここまでとは予想してなかった」
「高校の体育館だし、狭いとはいえ、これは…」
「相手高の部員も多いけど一般もかなりいるね」
「…ちょっと外で飲み物買ってくる。親友の名前何がいい?」
「ありがと!じゃあ水で!ここ、場所取っとくね!」
「リョーカイ」

親友の名前に荷物を預けて、さっき来る時に体育館の外で見付けた自販機に向かう。
もうほとんどの人が中で待機しているのか、館内の騒がしさが嘘みたいに外には人の姿が見当たらなかった。
なんの部かは分からないけど遠くから外の運動部の掛け声が聞こえるだけだ。
さっきの場内の熱気に当てられたのか、外の僅かな風もかなり気持ちよく感じた。
座席もないから場所の確保も大変だろうし、さっさと買って親友の名前のところに戻ろう。
そんな事を考えながら歩いていると、突然真横にあった鉄の扉が勢いよく開いた。
危ない危ない、開閉注意ですよ〜。
「ん?…わっ!」
「きゃあ!」
扉が開いたと同時にドンっと横からの衝撃。
別に痛くも痒くもなかったけど驚いて思わず目を瞑ってしまった。
すぐ傍で甲高い声がしてふと目を開けると、見覚えのある女の子が慌てて姿勢を正していた。
バスケ部のマネージャーの子だ、確か…桃井さん。
「ごめんなさいっ!大丈夫!?」
桃井さんはものすごい勢いでバッと頭を下げて謝ってきた。
クラクラしないかな。
そんなに血相変えて謝ることないのに、きっと優しい子なんだろうなと思う。
軽く両手を挙げて彼女に答えた。
「全然大丈夫、桃井さんこそ平気?」
「えっ!わ、私!?全然!体、丈夫だしっ」
「…あははっ、なら良かった」
「えっと!あの、」
「あ、私…苗字名前、同じ学年の」
「苗字さん!ご、ごめんなさい!私服だし髪型も違うから分からなかった!」
「え、私の事知ってたの?」
「同じ学校の子だもん、分かるよ!」
「そっか…あ、そういえば、急いでたみたいだけどどうかしたの?」
「あっ!」
目立たない私なんかの事を知っていた事に驚きつつ慌てて飛び出して来た様子の彼女に問う。
この慌てっぷりは何かあったと見て間違いないと思う。
思い出したように跳び跳ねた桃井さんは、私の両肩を掴んで詰め寄り縋るような目を向けてきた。
おお、顔近い、可愛い。
「青峰くん!見なかった!?」
「青峰くん?」
「あのっ、背高くて顔黒くて目が吊り上がってて、」
「ふははっ、大丈夫、分かるよ青峰くん(あはは、酷い言い様だな)」
「そ、そっか!そう、その青峰くんが大事な試合なのにまだ来てなくて!」
「えっ、そうなの?」
「1時間前に電話した時はもうすぐ着くって言ってたんだけど、今電話にも出ないのっ」
「んー、私がここに来る時も今までも見掛けなかったけど」
「そっかぁ…ごめんね!ありがとう」
「もし見掛けたら連絡しようか?」
「あ、ありがとうっ!苗字さん!」
連絡先を交換して走り去る彼女を見送って一息。
嵐みたいな子だったな、でも状況も状況だし無理もないか。
マネージャーも大変なんだなあと思いながら自販機に足を進める。
青峰くんね。
教室での覇気のない彼の様子を思い浮かべる。
あんまり練習にも出ないって言ってたし、この練習試合もサボリなのかな。
もしこのまま彼が見付からなかったら桐皇の勝利はかなり危ういんじゃないかと、他の部員の皆さんに大変失礼な事を考える。
でもまあそれくらい、前に見た試合の青峰くんのプレイは圧巻だったという事だ。
思ったより頭に焼き付いている。
「水、水…」
自販機に着いてお金を入れ目当ての品を押す。
ガチャン、と音を立てて落ちてきたペットボトルを取り出したところで、真横の低い木の茂みからカサリと音がした。
「み゛ゃあー」
「…なんだか今日は真横からのお客さんが多い日だー」
カサカサと音を立てて出てきたのは猫だった。
学校に猫がいるなんて珍しい。
…あれ、ちょっと待ってこの猫。
「み゛ゃあ」
「キミ、もしかして…この間の猫ちゃん!?」
「み゛ゃっ」
「この声、珍しい色だし!やっぱそうだよね!えっ、なんでこんな所に居るの!?」
見掛けたのはうちの近所だったのに!
大声で猫に話し掛けるなんて端から見たら可笑しな光景なのだけど、思わぬ再会を果たした私は妙にテンションが上がってしまいその子に歩み寄った。
身構えたものの逃げる様子はない。
「えっ、迷子?なんでこんな所で?」
「み゛ゃっ!み゛ゃあっ」
この間のようにワシャワシャと頭を撫でると案の定ダミ声が上がる。
可愛いな…うっ、飼いたい。
心の葛藤を知ってか知らずか、猫ちゃんは撫でる私の手に猫パンチを食らわせてくる。
それがまた可愛いに追い討ち掛けてるんだってば〜。
心の中で悶えていると、遠くから誰かを呼ぶ声が聞こえてきた。
「---さーん!青峰さーんっ」
「…あー、まだ見付からないんだ」
「青峰さ、あっ、騒がしくてスイマセン!!」
「えっ、だ、大丈夫だよ!大変だね、っ痛!」
「え!」
「あ…行っちゃった」
「え、猫…す、スイマセン!邪魔してしまって!」
「あー、いいのいいの。大丈夫」
桜井くんだ。
前の試合、ものすごいスリーポイント決めてたし、この人も今日も出るのかな。
そんな事を考えながら呑気に構えていると桜井くんが慌てて身を乗り出してきた。
「指!血が出てます!」
「え?あ、ホントだ」
「スイマセン!!ボクが驚かせたから!」
「大丈夫だよ。私はいいから、青峰くん捜し頑張って」
何度も振り返りながら遠ざかっていく桜井くんにヒラヒラと手を振る。
再会出来た猫ちゃんとの呆気ないお別れをちょっとだけ惜しみながらさっき痛みの走った指を見ると、爪が刺さったのか小さく穴が開いて少しだけ血が垂れていた。
「とりあえず洗い流して戻るかー」
思ったより時間掛かっちゃったな。
水をもう1本買い足して親友の名前の元へ急いだ。





「名前、大丈夫?遅かったね」
「ごめんごめん、ちょっと運命的な再会を果たしちゃってさ」
「えっ!運命的!?」
「そ」
「まさか男!?」
「残念、ねーこー」
「なんだ猫か」
「なんだとはなんだ」
談笑しながらコートを見下ろすと両チーム共アップが済んだようで、それぞれのベンチでミーティングのようなものが行われていた。
桐皇は人数少ないなと思っているとさっき会った桜井くんがちょうどバタバタと入ってくる所で、続いて桃井さんもドリンク等を抱えて入ってきた。
ほんとマネージャーって大変そう。
そんな彼女の後ろ、
「あ…見付かったんだ」
頭をボリボリと掻きながら体育館に足を踏み入れたのは…
「青峰だ」
「桐皇の青峰が来たぞ」
「青峰だ、あの1年の」
青峰くんだ。
場内を軽くざわつかせて遅刻で登場。
いいご身分だ。
しかも隠しもせず大欠伸をして如何にもやる気がなさそう。
あんなに一生懸命捜し回っていた二人を思うとなんだか居たたまれない。
いつもあんな苦労させられてるのかな、同情するわ。
大事な試合の集合時間に遅刻した問題児に、今吉先輩は怒る様子もなく近付いてその肩をポンと叩いた。
隣からお花とハートが飛び散る。
「今吉先輩!心が広い、素敵!」
「甘やかしてるだけでしょ」
「私も甘やかされたい!」
「はいはい」
相変わらずぶっ飛び思考の親友を軽く受け流して、恐らくもうすぐであろう試合開始を待った。

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