ネコさまはカレである | ナノ



「お前…ガチのお節介ババアだな」
「…お節介は認めるけど、ババアはなくない?」

なんで私が青峰くんから「お節介ババア」なんて言われ続けているのか。
それはそもそも青峰くんが人から干渉されるのが嫌な性格だというのもあると思うけれど、最近の私の行動に対してそう言うに至っているのだと思う。
私が毎晩部屋に簡易的だけど青峰くん用の布団を用意しているから。
ツリメは毎晩部屋に来るし、夜中に青峰くんになったりするし、それがもう分かっているのだからとベッドから離れた場所に寝床を用意してから就寝する事にしたのだ。
たまに明け方目が覚めた時、青峰くんがちゃんと布団を使って寝ているのを確認できたのでまあ良しとしている。
同じベッドで一緒に寝られても…なんていうか、うん…色々と困る。
なんでこんな普通じゃ有り得ない事が起きているのか、勿論私なんかに解明できるわけもないし全くもって意味が分からないけど、ツリメは私にとって大切な猫ちゃんだし、青峰くんはまあ…一応クラスメイトだし。
それにしてもババアと来たか…と悶々と考えていると、暫く黙り込んでいた青峰くんがぼそりと呟いた。
「…お節介ついでに、お前に言っときてえ事がある」
「ん?」
「もしオレが…」
「青峰くんが?何?」
「…」
「?」
「…いや。やっぱいーわ」
「え、言いかけて止めるのナシ」
「うっせ。そのうち気が向いたら言う」
「えー」
何を言いたかったのかは分からないけど、ちょっと真剣な顔をしてたからあまり追求はできなかった。
青峰くんも何か思うところがあるのだろう。
不安である事は間違いないと思うし。
そういえば最近少しだけ、ツリメと青峰くんが入れ替わるタイミングみたいなものが分かってきた気がしている。
ツリメが熟睡する時、あとは何かに驚いた時…特に小さい子供の声を聞いた時や子供が近寄って来た時にどこかに隠れてそこで青峰くんに入れ替わるとか。
やっぱり怖い思いをした分子供は苦手なんだろう。
青峰くんの話を聞いているうちになんとなくきっかけが掴めてきた。
とはいえ、未だツリメから青峰くんに入れ替わる瞬間を見たことはない。逆もしかり。
毎晩同じ部屋で寝ているし…いや、なんか言い方がよろしくないな…とにかく、今まで何度もその瞬間を見るチャンスはあったのに、遭遇できないのだ。
ほんの一瞬目を離した隙、瞬きの間に変わってしまっていたりする。
どうしても見たいというわけではないけど、気になるのは仕方ないことだと思う。
それを目にしたところで私なんかに何かが出来るわけでもないのだけど。
そんな妙な生活が続くようになって、青峰くんとはたまにこうやって休み時間に話すようになった。
お手伝いで部活でも顔を合わせるし、まあこんな状況でもあるし、こうなるのは必然かなとも思う。
同じクラスでも全く話したこともなかったというのに、なんとも不思議な巡り合わせだ。
よいしょ、とベンチから立ち上がって隣を見れば、少し低い位置にある鋭い目とかち合った。
あ、これはさぼろうとしてる。
「教室、戻ろ?」
「…だりぃ」
「…」
「…わーったよ。戻りゃいんだろ?」
「分かればよろしい」
「…お節介」
「聞こえてるからね?」
「聞こえるように言ってんだよ」
「はいはい」
こんな風に言葉を掛け合うようになるなんて、ほんと、不思議。
ふと視線を感じてもう一度青峰くんを見ると、立ち上がって随分高い位置に目があった。
「苗字」
「ん?」
「…」
「何?言いかけてまたやっぱ止めた?」
「ちげえし」
「じゃあ何?」
「…お前」
「うん?」
「なかなかの寝相と寝言だよな」
「え?」
「猫もオレも可哀想だと思うわ、マジ」
「!?」
「っふは!何顔赤くしてんだよ」
「そっ!そういうこと言う!?寝相とか!っていうか寝言!?」
「事実だろ。寝言はまあアレだ。気にすんな」
「!ツリメは私の事大好きだしそんな事思ってないと思うけどね!自分から来るんだし!?っていうかねえ!寝言って!?私何言った!?気にしないわけないよね!?」
「あーはいはい。ピーピーやかましいわ」
「なんか納得いかないよ!?」
「おら、教室戻んだろ?」
「なんだろコレ!すごく不愉快!」
「置いてくぞ」
「〜っ!」

色んな意味で顔を赤くして教室に戻った私は当然親友の名前に絡まれたけれど、あまりに不機嫌な顔をしていたようで深く追求される事はなかった。
親友の名前が躊躇うくらいって、私どれだけ酷い顔してたんだろ。
何にしたってあの青峰大輝という人間のせいだ。
思い浮かべると同時、その人物を確認しようと視線を移動させると、既に席に着いて机にだらりと上半身を預けていた。
まったく!この自由人め!
なんだかすごく、振り回されている。






「苗字さんと青峰くんって、最近仲がいいよね?」
「え?」
土曜日、早朝。
なんとなく慣れて様になってきた練習試合の手伝いの日だ。
ドリンクを作りに行こうと空のボトルの籠を持ち上げたところで声を掛けられた。
今日も相変わらず可愛い桃井さんだ。
こちらをじっと見て私の返事を待っているようだ。
青峰くんと私が仲がいいか?それはどうだろう?
「仲がいい?」
「うん。よく話してるの見掛けるよ?」
「ああ」
休み時間に教室を出て話しているところを見たということか、と納得。
でも仲がいいかと問われるとそうではないと思う。
例える言葉がないな。
何かちょうどいい表現はないものか。
猫の件は話せないしどう説明しようかと考えていると、桃井さんの方から続けてとんでもない質問が投げられた。
「もしかして、付き合ってるのかな?」
「…は、え?」
「嘘!当たり!?」
「いや、全然ちが」
「ほんと!?付き合ってるの!?」
「いや、今違うって、」
「きゃー!」
「え、ちょっと!え!?」
興奮して私の声が耳に届かないのか、桃井さんは胸の前で手を合わせて目を輝かせ頬を上気させている。
ちょっと待って、それどういう反応なの?
期待に満ちすぎじゃない!?
「あの青峰くんに彼女なんて!」
「いや、桃井さん!ちょっと落ち着いて!?」
「え!?なあに!?苗字さん!」
「お、落ち着いて聞いて!」
「うん、なあに?」
「ないから!青峰くんと付き合ってるとか、あり得ないよ。桃井さんの勘違い」
「ええ〜?…そうなの?」
「そうだよ。私クラスメイトだし、話くらいするよ?」
「んー。そっかあ、残念だなあ」
「残念って」
「苗字さんと話してる青峰くん楽しそうだし、イイ感じだと思ったんだけどなあ」
酷く残念そうに肩を落とした桃井さんは『勝手に盛り上がってごめんね』と言ってマネージャーの仕事に戻って行った。
何あの落ち込み方!
何をそんなに期待してたの桃井さん!!
あー、ほんとビックリした。
青峰くん、私と話してる時楽しそうな顔してたっけ?
思い返してみてもあまりそんな風には思えないんだけどなあと籠を抱えて水道に向かおうとしたところ、ちょうど思い浮かべていた人物が目の前に現れた。
「…おはよう」
「ふあ〜あ…はよ」
「今日はちゃんと来て偉いね」
「…バカにしてんのか?」
「純粋な意見です」
「余計なオセワだ」
「そーですか」
「あ、そうだ。お前」
「ん?」
「昨日すげえヨダレ垂らしてたから拭いといてやったぜ?」
「!?」
「おもしれえ顔…っくく!ジョーダンだっつの」
「はあ!?」
「喉乾いたしドリンク早くな」
「〜〜〜っ!」
桃井さん!楽しそうってこういう事かな!?
私がただ遊ばれてるだけじゃない!?
勢いよく桃井さんの方を見ると、彼女はばっちりこちらの様子を見ていたようで、だけど私が思ったのと全く違う反応を示していた。
めちゃくちゃ目が輝いてるし、ウンウン頷いてこっち見ないでくださいお願いします。
そんな期待を込めた目で見られても。
誰がどうみてもこんなので付き合ってるとは思えないと思うんだけどなあ。
「ていうか私、そんな弄られキャラでもないんだけど」
がっくり項垂れてドリンクの準備に取り掛かる。
次は絶対に青峰くんに何か仕返ししてやろうと決意した。

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