ネコさまはカレである | ナノ



「みゃー」
「…おはよう、…青峰くん、じゃないよね」
「みゃ?」
「ツリメだよね?」
「みゃー」
朝、いつも通り窓を開けろと鳴いて私を見るツリメ。
昨日の事もあって色々考えてしまうけどツリメは変わらずツリメのままだった。
夜が明ければ青峰くんの姿はなくなっていて、部屋には当たり前のようにツリメがいたのだ。

『最近は夜目ぇ覚めると、何故かここに居んだよ、オレ』
青峰くんの言葉を思い出してみるもののやっぱり現実味がないというか、まあはっきり言ってまだ信じられない。
だけど青峰くんの話が本当なら、今ここに居るネコのツリメと人間の青峰くんが入れ替わり立ち替わり存在しているという事になる。
となると…こうやってツリメがここに居る今、青峰くんの存在は一体どこに在るというのだろうか。

「私誰にも言わないし、出来る限りの事はするから」とは言ったけれど、こんな非現実的な事に対して私に何ができるだろう。
考えてみても名案など思い付くわけもなく、いつものように窓の外へ出ていくツリメをボーッと見送った。


「名前…具合でも悪い?」
「え、全然。元気だけど?」
「ならいいんだけど、ずっと窓の方見てボケーっとしてさ。さすがに心配になるよ?」
「…そんなボーッとしてた?」
「好きな人でもできて外にいるのかと思ったけど外誰もいないし」
「あー、好きな人とかないない」
「つまんないの」
「つまんなくて結構デス」
無意識だった。
私が見てたの、窓の外じゃなくてそのちょっと手前。
昼過ぎても登校してこない青峰くんの席だ。
考えたって仕方ないんだけど結局気になって気になって、今はツリメの姿なのかなとか青峰くんの姿になってどこかで寝ちゃってるのかなとか色々考えていた。
考えているうちにいつの間にか青峰くんがいるはずの席に目を向けていて、授業内容そっちのけで廊下の足音に耳を澄ませてみたり…今みたいに授業が終わった事にも気付いてないとか、これじゃ心配されても仕方ないか。
これはちょっとよろしくないぞと小さく息を吐いてから背筋を伸ばす。
そして心配してくれた親友の名前に声を掛けようとしたところに、桜井くんのよく通る声が響いた。
「青峰さん!おはようございます!」
「おー」
続いて聞こえてきたのは低く気怠い声。
反射的に声のした方へ振り向いてしまった私は、その声の主とバッチリ目が合ってしまった。
遠くも近くもない微妙な距離だったせいでおはようを言うタイミングも失って、マヌケに口を半開きにしたまま数秒。
あれ、青峰くんの進行方向がなんだかおかしいぞと思っているうちに、さっきよりも距離が縮まっていた。
気付けば目の前。
「苗字」
「え!?」
「ちょっといいか」
「は」
「話」
「は、話!っ分かった」
ザワザワした休み時間の教室で私たちの会話は雑談に飲み込まれ、特に誰かに気にされるような事はなかったけれど、桜井くんと親友の名前だけは目を見開いて私たちを見ていて、こりゃ後で質問攻めだなと思いながら私は青峰くんの後を着いていく。
教室を出る時には親友の名前の目が明らかにニヤニヤしていたのはもうホント見なかった事にしたい。
そういうんじゃないの、ホントに!



「座れば」
「…うん」
着いて行った先は体育館脇のちょっとした休憩スペース。
先にベンチにどすんと腰を下ろした青峰くんが、私にも座るよう促した。
大人しく隣に座り少しの沈黙の後、ぽつりと青峰くんが呟く。
「昨日は………悪ぃ…つうかほぼ毎日」
「…え!?」
「だから、謝ってんだよ!メーワクかけてんだろ!」
「いや、別に平気だけど」
「はあ!?」
「ええ!?」
「え、じゃねえだろ!」
「なんで怒ってるの!?」
「怒ってねえわ!お前がワケ分かんねえからだろ!」
「どこが!?」
「どこがって、…」
「…」
「…」
よく分からないままヒートアップしてしまった会話が途切れる。
青峰くんは一度深呼吸をするとベンチの背もたれに勢いよく上半身を預けて、空に向かって今度は溜め息を吐いた。
なんだかすごく情緒不安定のようだ。
謝ってきたことには驚いたけど、結局怒鳴られたみたいな感じになってるし正直謝られた気分ではない。
まあ別に謝ってほしいことなんてないんだけど、青峰くんは気が治まらなかったんだろうか。
「体調、平気なの?」
「…お前、お節介だな」
「酷い言われ様…けど、実際結構顔色悪いと思う」
「色黒だからな」
「認めないね」
「お前も良もそんなにオレを病人にしてえのかよ」
「桜井くん?私も桜井くんもそんな事思ってるわけないでしょ」
「どうだか」
「もう、なんで素直に心配と受け取らないかな」
「…は?…心配?」
「そう、心配…ん?」
「…」
「…」
心配?
特に気にしてなかったけど、大して仲良くもない私が青峰くんの事を心配…心配してるの!?
いや、これは話の流れでそういう言葉が出てきたからであって、別にすごく心配してるとかじゃないし…
呆けた顔でこっちを見てくる青峰くんになんだか居たたまれなくなって、そーっと視線を逸らしながらなるべく自然を装って立ち上がる。
遅れて隣で同じ様に立ち上がった気配と共に、大きな影が横の視界に入り込んだ。
「…お節介ババア」
「ババアは酷くない?…ひねくれ者」
「おー、褒め言葉だな」
「…」
「ギブかよ、早」
「別に競ってないし」
「ックク」
「…」
今度は笑われた。
なんだかこの数分で青峰くんの色んな表情を見た気がする。
こんなに喜怒哀楽のある人だったんだ。
今まで特に関わりもなかったのだから知らなくて当然だけど、青峰くんのこの笑った顔はちょっとレアなんじゃないだろうか。

この後、なんとなく一緒に教室まで歩いて戻った私たちは、案の定桜井くんと親友の名前にそれぞれ歓迎されて席に着いた。
桜井くんは純粋に青峰くんがちゃんと授業までに戻ってきてくれた事に喜んでいるようだったけれど、親友の名前に関してはもう言うまでもなく…

「早いお帰りですな!サボってくれば良かったのに〜」
「あー、ハイハイ。そう来るとは思ってたよ?」
色々と追求されたけれど今はまだ本当の事を話せるわけもなく、ひたすらただの部活の話だと言い続けて難を逃れた。
ふと目をやった先の青峰くんは既に自席で寝息を立てていた。



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