ネコさまはカレである | ナノ



夕方から朝までという時間限定でツリメと生活するようになって、そろそろ1週間が経とうとしていた。
夜中は私も疲れてぐっすり寝てしまうからツリメのことは構ってやれないけど、私が寝ようとすれば丸くなってベッドで一緒に寝てくれる。
ちゃんと人間の生活に合わせられる頭の良い猫だと思う。

「ツリメー」
「みゃ」
「今日も一緒に寝てくれる?」
「みゃー」
まあ、私の独り言が増えたのが唯一の悩みの種だ。
ツリメを抱き上げ腿の上に乗せると、喉をゴロゴロ鳴らして撫でろと頭を擦り付けてくる。
一緒にベッドに横になってそのゴロゴロを聞いていれば、私もだんだんとぼんやりとしてきて…

気付けば眠っていたんだけど、変な夢を見た。
夢にしては妙にクリアで、だけどあまりの現実味の無さにもうこれは夢でしかないと判断したんだけど…

『名前』
『オレだ、オレ。ツリメ』
『おい、寝たフリすんな』
「…え、なんで喋ってるのこの子」
『いいからよく聞け』
「夢だからまあいっか」
『わけあってこの時間帯、お前の所に世話になる』
「ん?」
『わけは話せねえ上にいつまでかも分かんねえけど、とにかくこの時間帯だけはオレを匿ってくれ』
「…うん」
『気味悪がって追い出すなよ?』
「え、なにそれ怖い」
『怖くはねえよ。ちょっと珍しいってだけだ』
「珍しい?」
『とにかくいいか?約束だぞ』
「え、ちょっと待ってよ」



「待ってツリメ!」
「みゃー」
「…あれ」
起きたら普通に隣にツリメがいた。
いつもと変わらないはずなのになんだかさっき見た夢が気になって仕方ない。
こっちをじっと見るツリメが『約束、忘れんなよ』って言ってるみたいに見えてくる。
おかしい、あり得ないでしょ。
さっきのは夢なのに。
「…ツリメは珍しい猫なの?」
「みゃー?」
「…んなわけないか」
そう自分に言い聞かせて、ツリメの頭を一撫でして立ち上がる。
さて、今日は練習試合だ。







「おはようございまーす」
「おはようさん…あれ、今日は親友の苗字と一緒やないん?」
「今日は用があって、ちょっと遅れてきます」
「ふぅん、さよか」
「?」
「見慣れた顔が居らんと…寂しいもんやなあ」
「!そ、それ、親友の名前が聞いたら喜びます!」
「はは。飛んで走って来るのが目に浮かぶわ」
まじか、親友の名前脈ありか!
今吉先輩の優しい笑顔に思わず一瞬見惚れてしまった。
この人、こんな優しい顔して笑う人だったっけ。
失礼だけど何か企んでそうな感じの笑顔しか見たことがなかった私は困惑だ。
親友の名前がそうさせてるのだとしたらと考える…というかもうそうとしか考えられなくて、ニヤけるのを止めることなんて出来なかった。
良かったじゃん親友の名前!前進してる!びっくりだけど!
気合いを入れるように腕捲りをして、マネージャー(のお手伝い)のお仕事スタートだ。




ガラガラとやる気のない音を立てて体育館のドアが開いたのは、既に練習試合が始まって暫く経ってからだった。
桃井さんは難しい顔をして原澤先生と何やらお話中で、入ってきた人の存在に気付いていない。
当然試合中の今吉先輩たちも集中していて、少し離れたこの入り口に視線が来ることはなかった。
お手伝いの立場だし桃井さんたちの代わりにもならないけど、とりあえず近場にいた私はその人の所に向かった。
「おはよう、青峰くん」
「うおっ!っ、なんだよ…びっくりさせんな」
「いや、そんな驚かれたことにびっくりなんだけど」
「…なんだ、勝ってんじゃん」
「うん。青峰くんも早く着替えてアップしないと」
「さつきみてぇな事言うな。つうか勝ってんならオレ出る必要なくね?」
「…」
そうか、そういう考え方しちゃうか。
そっぽを向いて腰の辺りをボリボリ掻いて、やる気ないオーラ全開の青峰くんになんだかモヤモヤして、コートを動き回る選手たちを見ながら私はつい言葉を溢していた。
「必要ない選手なんている?」
なんとなく隣から視線を感じる。
それを無視して言葉を続けた。
「私バスケ素人だしまだ分かんないことだらけだけど、バスケ部ってさ…強い弱い関係なく皆とにかくバスケが好きな人の集まりだなって思ってるんだよね。まあ、どの部活もそうだと思うけど」
今吉先輩だって諏佐先輩だって、怒るとめちゃ怖い若松先輩だって桜井くんだって、部員皆がバスケが好きな事は伝わってくる。
青峰くんだって…やる気を出さないけどバスケが嫌いってわけじゃないと思う。
そもそも嫌いなら部活にすら入らないはずだ。
「青峰くんが出る必要ないって思っててもさ、ここには青峰くんのプレイ見たい人、いっぱいいると思うんだけどな」
「別に、んな事どうでも」
「ぶっちゃけ私もそのうちの一人なんだけどね」
「…はあ?」
「見たこともないものすごいシュート決めたところなんか見ちゃったら、やっぱ魅了されちゃうよね」
言いながらゆっくり隣に視線を移動させれば、こっちを見ていたらしい青峰くんと視線がぶつかる。
「…」
「とか、思ってるわけです」
何言ってんだろ、私。
実はさっきのセリフってちょっと恥ずかしくない?
なんとなく気まずくて特に必要のない言葉を付け足してみれば、青峰くんは私から目を反らしコートに目を向けてボソリと呟いた。
「…バカじゃねえの、お前」
「えー、バカなのかな」
「うっせ。黙って見てろ、バカ」
「え」
言うなり青峰くんは羽織っていたジャージを脱いで、手首や足首を軽く回し始めた。
そして床に落としたジャージをそのままに、コートに向かってゆっくりと歩き出す。
「え、ちょっと、青峰くん?」
「それ、その辺置いとけ」
「ん?うん」
置いとけと言われたからってそのままにしておくわけにも行かず拾って軽く畳んでいれば、顔だけ振り返った青峰くんとバチっと目が合った。
「?」
「マネージャーらしくなってきたんじゃね?」
「!た、ただのお手伝いだけどね」
不意打ちで慌てる私を尻目に、ニヤリと笑った青峰くんに思わず見入る。
初めて見るちょっと楽しげな顔にほんの少しだけ胸がざわついた。

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