1周年記念企画小説 | ナノ





「ただいまぁ………は!?あ、暑…」
珍しく午前中だけのバイトを終えて家に帰ると、玄関を開けた瞬間咽返る様な熱気に襲われた。
青峰くんは確か今日は1日家って言ってたし、靴もあるから居るはずなんだけど。
リビングの扉を開ければきっと涼しい部屋が待ってる、そう期待してドアを開けた。
「ちょ、あっつい!サウナ!?」
玄関よりも暑かった。
室内だというのに蜃気楼でも見えそうだ。
そして青峰くんはこの馬鹿みたいに熱い部屋のソファに仰向けで寝転んでいた。
勿論汗だくだ。
有り得ない。
堪えられないとエアコンのリモコンを必死に探す。
いつもの場所には無くて暫く探し回っていると…、見つけた。
青峰くんの肩口に埋まる様にしてスイッチはオフになっていた。
あんな所に置くから寝ながら切ってしまったんだろう。
そっと近付いてリモコンに手を伸ばす。
横目で青峰くんを見遣れば眉間に皺を寄せ額や首筋に玉の汗をかいていて、Tシャツは水分を含んでしっとりしている。
これじゃ部屋が涼しくなる前に拭かないと風邪をひいてしまうかもしれない。
そう思っているとピッというリモコンの音で青峰くんが起きた。
「ん、んあ?…あーっちぃ…」
「おはよう」
「…ん、お疲れ…」
「汗、すごいよ」
「あー…すっげえ、クソ暑い」
「ほら、汗拭かないと」
バッグからタオルハンカチを取り出して青峰くんの額を拭った。
目を閉じて大人しく拭かれている姿がなんだか可愛い。
額を拭き終えると顎をぐっと上げて『ん』なんて言うものだから、思わず吹き出してしまった。
首の所も拭けって事らしい。
「んだよ」
「いや、…っふふ」
「…ん、こっちも拭け」
「え?」
不貞腐れた顔で青峰くんが指差したのは自分の体。
Tシャツを捲って引き締まった胴体を晒す。
健康的な色の肌の上、Tシャツが吸い切れなかった汗が滴っていた。
「ねえ、シャワー浴びて来た方が早いよ」
「無理、動けねえ」
「嘘」
「嘘じゃねーよ」
「…ほら、動けるくせに」
「うるせ」
動けないと言った傍から手を伸ばし私の腕を掴んだ。
そのまま私を勢いよく引き寄せる。
私は半身を青峰くんの体に乗り上げ、驚いて仰け反った。
「ちょっと!何!」
「別に?」
「別にって!汗!私も汗かいてるから!離して!」
「ならいーだろ。俺も汗だくだ、気にすんな」
「はぁ!?」
「暴れんなよ、暑い」
「なッ、ん!」
後頭部をがっつり掴まれて唇を塞がれた。
ジタバタともがいたけど力で敵うわけもなく、体を起こした青峰くんに押し倒され抱きすくめられた。
触れ合う肌が汗でペタペタと音を立てる。
無性に恥ずかしくなってぎゅっと目を瞑った。
ふと唇が離れたので恐る恐る目を開ける。
至近距離で目が合った。
「ッな、に?」
「エロイな、お前」
「は!?」
「汗かいてると、なんかエロイ」
「ちょ!もう!ホント退いて!!」
「ってぇ!わーったよ!殴んなバカ」
両手を上げて体を起こした青峰くんの胸を軽いグーで叩く。
続けて起き上がろうとした私はまた青峰くんに引っ張られて腕の中に収まった。
なんだか今日はスキンシップが激しくて心臓に悪い。
「…どうかした?」
「…何がだよ」
仕方なく抱き締められたまま問い掛ける。
更にぎゅっとされた。
「なんか、…甘えてます?」
「誰が」
「あ、青峰くんが」
「意味分かんねえ」
「だって…」
「…」
「…」
「…」
「…?」
黙り込んだ青峰くんの顔を見ようとしたけど頭に顎を乗せられて出来なかった。
少しずつエアコンが効いて来て汗が引いて行く。
これはそろそろ本気で着替えるかシャワーを浴びた方がいいと向かい合った青峰くんの背中をトントンとすれば、大きく溜息が漏れた。
「…はぁ」
「どうしたの」
「……夢」
「ん?」
「夢、見たんだよ…お前の」
「え、私の夢?」
ついさっき起きるまで青峰くんは私の夢を見ていたと言う。
私を抱き締めたまま夢の事を話し始めた。

話を聞いてつい笑ってしまった私の脳天を顎でグリグリする青峰くん。
だって仕方ないと思う。
私が真太郎と付き合ってて、青峰くんの事を何も覚えてない夢だとか言うから。
真太郎はツンだけど優しくて頼り甲斐があって言うなればそう、お兄ちゃんみたいな存在だ。
今回の青峰くんとの事だって大分助けて貰った。
確かに真太郎とは仲はいいけどまさかそんな夢を見るなんて。
堪え切れずに肩を震わせ続ける私を青峰くんが非難した。
「いつまで笑ってんだよ」
「っだ、だって、っふ」
「ああ?」
「ぎゃ!ご、ごめん!ごめんって!!」
「許さねえ」
「やだ!あははッ!ちょっと!」
青峰くんが抱え込んだ私の脇腹を擽り始めた。
抜け出そうにも締め付けられる一方だ。
助けを求めて顔を上げれば酷く意地悪な顔をした青峰くんと瞳がかち合う。
嫌〜な予感が過ったと同時、おデコとおデコが鈍い音を立ててぶつかった。
「いった!」
そしてグッと近付いた距離。
鼻の頭がくっ付いて汗ばんだ熱い手が頬に触れる。
反射的に目を閉じれば低く笑われた。
「っくく、観念したかよ」
「う、うるさい!」
「そのまま目瞑ってろ」
「ッ」
熱い唇が重なった。
背凭れに背を押し付けられて更に深く口付けられる。
触れ合った場所からお互いの熱が伝わって融けてしまいそうだ。
羞恥が襲ったけれど、たまにはこんな日があってもいいかなと身を委ねる。
夢の中で真太郎に嫉妬してくれたらしい青峰くんに愛しい気持ちが込み上げた。



この夏はまだまだ熱に浮かされそうだ。
END
20140831



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