1周年記念企画小説 | ナノ

俺色に染める



俺が名前と初めて話したのは多分、雑誌コーナーでマイちゃん特集になってた週刊○○が無いかって聞いた時。
そこで作業してた女が裏に引っ込む前に声を掛けた。
振り向いた名前は驚いた顔をしてた気がする。
あの時は特に気にも留めなかった。
よく行くコンビニだしアイツもよく居る店員だった、それだけ。
レジとか品出しとかしてる名前にたまに声を掛ける様になったのも無意識だった。
そんな時、喉から手が出る程欲しかった週刊○○を名前が俺に差し出して来た。
廃棄になる予定だったヤツを持って来てくれたらしい。
興奮する俺をアイツは笑った。
普通ならイラッとする所だが、妙にテンションの上がった俺は別に気にならなかった。
ただなんか他の女と違って話しやすい、そう思っただけだ。
だから思ったまんま行動した。
コンビニに行けばまず取っ付きやすいアイツを探したし、暇な時間にアイツを連れ回した。
流れで撮ったプリクラはなんとなく携帯に貼った。
俺がこんな事するなんて今考えれば笑えるけど、その時は何も考えずにただ「楽しい」と感じたからそうした。
多分、ずっと俺が忘れてた感情。
アイツのコロコロ変わる表情が面白くて、なんとなく隣に置いといたら気分が良くて、気付けば学校まで行ったり部活に連れてったりしてた。
そこで若松と良、腹黒眼鏡とまで知り合いだった事に胸糞悪くなる。
謝りまくる良を笑った名前の柔らかい表情に俺は固まった。
初めて見た笑った顔が俺じゃないヤツに向けられたもんだと思ったら、妙に腹が立ったからだ。
それだけじゃねえ。
アイツが『良』と呼ぶ事にイラついた。
俺は『青峰くん』で良は『良くん』。
そんな事でイラついた事なんか無いし、人に名前で呼ばせたいとか思った事はない。
自分から携帯の番号聞いたのも初めてだった。
それから…機嫌が悪くなった俺をなんとかしようとしたのか、笑わない名前が無理矢理向けて来た笑顔に盛大に吹き出した。
やっぱコイツ面白い、益々名前を近くに置いときたくなった。

腹黒眼鏡と良は意外にも無害で…一番面倒だったのは若松のヤロウだった。
本気でうざい。
若松は名前に本気だった。
とにかくイラついた。
アイツの視界に入っていいのも、話し掛けていいのも、触っていいのも俺だけだ。
イライラがMAXに達した俺は気付けば若松の腹に蹴りを一発入れてた。
若松を心配する名前にさえ苛立つ。
そんなヤツほっとけばいいのに。
それを口にした俺は…思いっ切り叩かれた。
…デコをだ。
あの時のアイツの悲しそうな顔が頭にこびりついて離れない。
それから俺は名前に顔を見せるのが怖くなった。
俺に怖いもんなんか無いはずなのに。
いつも寄るコンビニも寄らずに通り過ぎた。
けど結局俺に『我慢』なんか利くわけもなく。
振り向きもせず一旦は通り過ぎたコンビニに引き返した。
俺を見て驚く名前。
当たり前だ、あれ以来連絡も取ってない。
心ん中じゃ戸惑いながらも当然の様に手を握れば、俺よりずっと小さい名前の手が握り返して来た。
瞬間…バカみたいに顔が熱くなった。
俺、キモイ。
どんどん込み上げて来る感情を抑えるなんて出来るはずもなく、俺は名前を腕の中に閉じ込めた。
っていうか締め上げた。
離してたまるか。
これ以上拗れんのは御免だ。
名前、お前は俺のもんだろ?
誰にも触らせたくない。
分かれよ。
自分でも気付いてたくせに認めなかったそんな思いを、俺はとうとう口にした。
『っだーから!好きだっつってんだよ!お前が!』
いつからかなんて俺だって分かんねえ。
虚勢を張って横暴に接すれば不満を漏らす名前。
俺の腕から抜け出そうとするのが気に入らなくて言い合いになれば、名前が死ぬほどクソ可愛い事を言った。
『私だって青峰くんの事いつの間にか好きになっちゃってたんだからっ!!』
アイツの顔は真っ赤だったけど、多分俺の顔もキモイ程赤い。
ちゃんと聞かせろと訴えれば名前は意外にも素直に口を開いた。
『私、青峰くんが好き』
初めてしたキスは、よく分かんねえけど病み付きになりそうだって事だけは分かった。
優越感?征服感?
違うな。
感じた事のない柔らかい感情に戸惑いながら、俺はもう1回アイツの唇を塞いだ。






俺の中が、アイツで染まる。
アイツの中も俺でいっぱいになればいい。
END
20140831



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