Noticing me! | ナノ

03

特に何をするでもなく年が明けた。
テレビの画面には新年を祝う芸能人で溢れている。
絶え間なく続く笑い声はなんとなく耳障りだ。
何がそんなにめでたくて何がそんなに楽しいんだろう。
私、全然楽しくない。
鳴らない携帯をじっと見つめて溜息を吐いた。
「大我さーん。あけおめの返事くらい下さいよー」
呟いたにしては大きな独り言。
当たり前だけど1人の部屋には返事してくれる話し相手なんていない。
0時になった瞬間に大我さんに新年の挨拶メールを送ったもののその返事は一向にやって来ない。
寝てるのかな、実家に帰ってるとかかな。
コタツにごろんと寝転んでぼんやりと天井を眺めた。
あーあ、私ってホント残念な女。
実家にも帰りたくないし、かと言って予定もないので1人寂しく寝正月だ。
彼氏だっていない。
いたの、いつだっけ。
あんまよく覚えてないや。
そんな虚しい事を考えながらウトウトし始めた頃、テーブルに置いた携帯が勢いよく震えた。
ガバッと起き上がった私は軽い眩暈に襲われる。
そんなの気にしてられないとブンブン頭を振って画面を凝視した。
「大我さん!?………なんだ、黄瀬さんかぁ」
メールの相手は黄瀬さんだった。
大我さんからのメールを一体どれだけ楽しみに待っていたのだと苦笑いだ。
黄瀬さん、『なんだ』だなんて酷い事言ってごめんなさい。
心の中で謝ってメールを開いた。
『あけおめー!名前ちゃん、今年もどうぞご贔屓に!お店は明日からッス☆ちなみに営業は18時までなんでご注意を!』
……。
新年の挨拶とは上辺だけの営業のメールじゃないですか。
前言撤回、謝るんじゃなかった。
『あけおめです!仕方ないから行ってあげますよ!』
なんて返事をしてまた寝転がる。
ええい、こうなったら不貞寝だ!
私が起きている間に大我さんからの返事は来る事はなかった。


昼過ぎまでぐっすり寝ていた私は現金にも大我さんからのメールで飛び起きた。
『悪い!メール気付かなかった!今年もよろしくな!』
にやりと笑った自分の顔は今さぞ気持ち悪い事だろう。
返事が来た事にホッとした所で体の妙な違和感に気付く。
そういえばなんだかちょっとクラクラする。
嫌な予感がしておデコや首に手を当ててみれば予想は的中。
コタツの熱で暖かいのだと思っていたら体温自体が高くなっていたらしい。
「熱出た…最悪だ」
大我さんに会いに行けなくなった。


今の私の脳と体はいくら寝ても寝たりないらしい。
発熱に気付いたのに結局何も対処せず、いつの間にかまたコタツで寝てしまっていた私の体調は悪化の一途を辿っていた。
当然だ。
コタツで寝る事自体体に良くない。
時刻は18時を回っていた。
…寝過ぎだ。
どんよりしながら握り締めていた携帯をふと見遣ると新たなメールが届いていた。
『今日はもう閉店ッス!予定入った?』
黄瀬さんだ。
そういえば黄瀬さんには今日お店に行く様な返事をしていたっけと思い出す。
残念ながら予定なんてないですよ、とぶうたれた。
『熱出ました。酷いお正月です』
『うわー。大丈夫ッスか?』
『駄目、死んじゃう、お兄ちゃんください』
『熱で頭やられたんスか?』
『大我おにいちゃーん』
『お兄ちゃんって火神っちの事か!お兄ちゃんは今日は忙しいから無理ッスよ』
『えー、もうお店閉店したのに?』
『別件ッス』
『じゃあ黄瀬さん助けてください』
『じゃあって何スか!』
続くメールに疲れ始めると、私の携帯はメール編集画面を消して着信を知らせた。
相手も同じだったみたいだ。
『名前ちゃん、大丈夫ッスか?』
「大丈夫だと思いますか?言ったじゃないですか、駄目死んじゃうって」
『…心配してるのにその言い草』
「…ごめんなさい私最低です」
『まあいいッスよ。で…助け、必要ッスか?』
「え?」

黄瀬さんは凄く優しい人だった。
邪険に扱ってすみませんとこっそり謝る。
解熱剤や飲み物を買ってわざわざ持って来てくれたのだ。
救世主!
後光が差してる!
あのキラキラは髪色のせいじゃないはず!
なんて冗談はその辺にして。
大我さんといい黄瀬さんといい、あのバーには自然と優しい人たちが集まるのだろうか。
仕事とはいえ他のスタッフさんもいい人だし。
あ、あの青い頭の人はそんな感じじゃないけど。
人は見た目で判断しちゃいけないけれどあの人はなんだか怖い。
颯爽とやって来た救世主黄瀬さんは私の姿を見るなり笑った。
ムカッときたけどまあ仕方ないと思う。
だって私、女子力の欠片も無い。
元々そんなもの持ち合わせてないですけどね。
「っぶ!雪だるま!っていうか頭ボサボサ!あはは!」
「しょうがないじゃないですか、寒いんだから!」
そう。
私はダルマの様に厚着に厚着を重ねて頭だけを出していた。
着膨れだ。
そして黄瀬さんの言う通り頭はボッサボサ。
水と薬を持って近付く黄瀬さんにジト目を向ければ肩を揺らして笑いを耐えている。
そんな風に我慢するなら豪快に一遍に笑ってしまって欲しいものだ。
大我さんみたいに。
「大我さんが良かったです」
「ちょ!助けに来た相手に向かってそりゃないッス!」
「大我さんどこですか」
「だ、だから火神っちは今日は忙しいんスよ!」
「黄瀬さんの馬鹿!」
「はあ!?」
黄瀬さんから水と薬を奪い取って飲み下す。
ゴクリと喉を鳴らした途端、目の前の相手に両頬を引き伸ばされた。
「ひひゃひへふ」
「聞こえねッス」
「ひへひゃん」
「ぶ、っはは!」
「酷い…でも、ありがとうございます」
ついに耐えきれなくなって笑い出した黄瀬さんを非難しつつ、わざわざ家まで来てくれた事に感謝した。
病気をした時の一人ぼっちほど心細いものはない。
黄瀬さんはポンポンと私の頭を叩いて微笑むと『お大事に。辛かったら電話していいから。いっぱい寝るんスよ?』と言って帰って行った。
優しい笑顔にじんわりと心が温かくなる。
やっぱりなんだかんだでいい人だ。
大我さんのお兄ちゃんっぷりには負けるけど。
沢山寝て早く治して早くお店に行こう。
カウンターで笑う大我さんを思い浮かべながらベッドに寝転んだ。

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