Noticing me! | ナノ

23

「た、大我さん?」
「…」
私の頭をポンとして更には頬に触れて…しかもそのまま頬を指で摩ったり撫でたりしたままの大我さん。
と、されるがままにポカンとする私。
これは夢?そう思わざるを得ないほど彼の行動は想定外のものだった。
それも聞き間違いでなければさっき『可愛い』って…いややっぱり耳でもおかしくなったんだろうか。
何にしてもそろそろ周りからの白い目にも耐えられそうにない。
本当はいつまでもこうしていて欲しいけれどそういうわけにもいかなそうだ。
私は頬に触れる大我さんの熱い手に自分の手をそっと重ねた。
「!」
「…あの」
「う、えっ、あ…っ名前!」
「は、はい」
突然目が覚めた様に慌てだした大我さんが私の手を掴んだ。
そして立ち上がると、私のとバーガー山積みの自分のトレイを持って手を引いて歩き出す。
え?え?とサッパリわけの分からない私はただ大我さんに引っ張られるまま着いて行った。
お店の人に『持ち帰りの袋くれ、です』とか言ってちょっと笑われているのも気にせず、袋にバーガーを全部詰め込んで店を出た。


深夜の街は当たり前だけどコンビニやファミレス以外は閉店していて、少し道を逸れれば暗く静かな夜道になった。
掴まれた手首がじんわりと温かい。
大分高い位置にある大我さんの顔を見上げると、私の視線に気付いたらしい彼がゆっくりとこちらを向いた。
「…」
「大我さん」
「…悪い、勝手に」
「平気です」
「飯、全然食ってねえし」
「全然平気です」
「…お前、なんでそんなニコニコ笑ってんだよ」
「だって、嬉しいから」
「は!?」
ポロリと出たのは本心だ。
大我さんの意図は分からないけれどこうやって今2人で居られる事が素直に嬉しい。
「だって、私大我さんが好きなんですよ?」
「!」
「知ってるくせに酷いですね」
「あ、いや、」
「言い過ぎで真実味なくなっちゃったのかなぁ」
「っそんな事ねえよ!!」
「!」
ピタリと歩みが止まった。
大我さんの赤い瞳がじっと私の目を見ている。
ああ、私彼のこの熱い瞳も好きだ。
もう病気だなと心の中で笑って、もう何回言ったか分からない言葉を声に乗せた。
「好きです、大我さん」
「っ」
「振り向いて貰えるまで、ずっと好きです」
「名前!」
「え、っわ!!」
視界が真っ暗になって息が苦しくなった。
と同時に大我さんの匂いでいっぱいになる。
ぎゅっと背中に回ったのは彼の大きくて熱い手だ。
頭上で深い溜息が聞こえてドキリとした。
「お前は、ホント」
「?」
「ストレートだし、俺の中にどんどん入り込んで来るし」
「…大我さん?」
「…」
「ごめんなさい、困らせて」
「困ってねえよ!いや、困ってはいるけどよ」
「…ほら」
「ち、違う!俺が困ってんのはそういうんじゃなくて!」
「?」
「っお前にどう接していいか分かんねえんだよ!」
「…え」
大我さんの声が体に響いてすぐ、彼が更に私をぎゅうっと締め付けたせいで思わず『う』と声が漏れる。
私にどう接したらいいか?何故?
その疑問は続く彼の言葉が教えてくれた。
「いつからとか分かんねえ」
「…」
「でも心ん中じゃとっくにお前は特別になってたんだよ」
「え」
「いつも頑張ってて、近くに居て、笑ってて、『大我さん大我さん』って…」
「…」
「お前が居たから仕事も楽しかった」
「!」
「可愛過ぎんだよ、お前は」
「ちょ、と…急、急過ぎです大我さん、頭ついてかない」
「急じゃねえんだ」
「っ」
「でもずっと謝りたかった。その、悪かった…自分の気持ちも言わねえで、その、お前の事」
「!!」
彼の言わんとする事が分かって思わず顔を上げてしまった。
きっと赤司さんが私の家に大我さんを連れて来た時の事。
私を腕に閉じ込めたまま見下ろす大我さんの瞳は不安定に揺れていた。
あの事が引っ掛かって今までずっと私は避けられていたみたいだ。
嫌われて避けられていたわけではないと分かって心底ホッとした。
「好きだ、名前」
「…ほ、本当、ですかっ」
「嘘はねえ、本当だ」
「っでも、彼女さんは」
「彼女を好きだったのは否定しねえよ。でもそれはもう俺にとっては過去だ…でもまあ、それじゃ信用にならないか」
「そんな事、ないです…嬉しい」
「振り向いて貰えるまでって…そんなの俺の中じゃとっくにお前に振り向いてた。悪い、意気地のない男で」
「た、大我さんっ」
神様、今日は許してくれるよね!
私は大我さんの胸に飛び込んで大きな背中に腕を回してぎゅうぎゅうと彼を締め付けた。
ずっとこうしたいって思ってた事が叶って、今までの想いをぶつけるかの様に強く強く。
それに応える様に囁かれた『名前』という甘い声に身体が震えた。
うわ、幸せだ。
そっと少しだけ体を離され一瞬感じた寂しさも次の瞬間に吹き飛ぶ。
大我さんの優しい瞳が私を待っていてくれた。
「名前」
「はい」
「名前、呼んでくれ」
「大我さん」
「大我でいい」
「っ、…大我」
「ん」
嬉しそうに笑った大我さんの顔がぐっと近付く。
彼がこんなに笑った顔を見るのは初めてかもしれない、嬉しい。
そんな事を考えているうちに、彼の柔らかい唇が私のそれに触れた。
「お前が思ってる程俺は優しくねえよ」
「え?」
「だってよ、結構嫉妬深いんだよ俺」
「え!?」
「だから易々とお前に触る黄瀬には腹立つし、さっきもなんで青峰と一緒に居たんだとか考えちまうし…モヤモヤし過ぎてどうにかなりそうだ」
「っ」
「こんな女々しくてみっともねえ俺でも、好きでいてくれるか?」
情けなく眉を下げて私を見る彼に愛しさが込み上げる。
ずっと大我さんを見てきた。
その彼が今私を見てくれている。
女々しいとかみっともないとかそんな事思うわけない。

「当たり前です!」


振り向いて、お願い、こっちを向いて!
やっと届いた私の想い。
もっともっと私を好きになって貰えるように、これからも大我さん大好きを伝え続けたい。
今までよりずっと近くで。
彼を見上げて目一杯の笑顔を向ければ、顔をくしゃっとさせて笑い返してくれた。
この笑顔をずっと隣で独り占めしたい。
そんな事を考えながら、近付く彼の唇を受け止めた。

Noticing me!
ねえ、大我さん
これからもずっと私だけを見ていて!

END
20150721

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